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アンドロイド転生839

2118年7月30日 午後11時近く
東京都葛飾区:カガミソウタの邸宅

スミレがソウタに向かって微笑んだ。お粥を温めたと言うのだ。だけどスミレは容器を持ったまま笑って部屋から出て行った。おい?何処に行くんだ?待てよ!行くな…!

ハッとなってソウタは目覚めた。手を伸ばしていた。汗びっしょりだった。薄暗がりの部屋は静かだ。今…何時だ?宙空に向かって問うとは22:52分だとAIは答えた。ソウタはそうかと頷いた。

2日前から風邪を引いて寝込んでいた。スミレは平家カフェへソウタの為に食事を買いに行った。眠っていたので起こさなかったのだろう。
「スミレ…起きたよ」

どんなに小声でもすぐにやって来るスミレなのに、いくら待っても一向に姿を現さない。ソウタは首を傾げて寝室を出た。建物内は快適な温度に保たれているがどこか薄ら寒かった。

カガミソウタは資産家で広い邸宅に住んでいる。次々と部屋を確認するがスミレはいない。不安な気持ちになりコンピュータルームに行くと機械を立ち上げ彼女のGPSを探した。

だが何故か信号が捉えられない。ソウタは目を丸くして驚き、直ぐに眉根を寄せた。一体どう言う事だ?スミレの行動履歴を探った。最寄駅の亀有。その近くの公園までだった。

ソウタの疑問と不安が高まった。息を吸い込むと痰が絡んで思い切り咳込んだ。いつまでも咳が止まらず涙が滲んだ。胸を押さえてしゃがんだ。肩で息をする。熱い吐息だった。

やっと呼吸が落ち着くと友人のリツにコールした。スミレは平家カフェに行った筈なのだ。宙空にリツの立体画像が浮かんだ。
『ソウタさん。どう?少しは食べれました?』

「リ、リツ…。スミレは…そっちに行ったんだな…?お粥を貰ったんだな…?」
リツは目を丸くした。
『え?ええ…そうですよ』

スミレの不在を告げるとリツは驚いた。
『8時過ぎに店を出たんですが…。分かりました。探します。直ぐに家を出ます。亀有駅の付近ですね?公園ですね?』

「お、俺も家を出る!」
『ダメです!ソウタさんは寝ていて下さい。悪化したら困ります。かなり高い熱だって聞きました。大丈夫。必ず見つけるから!』

ソウタは泣きそうになった。不安で不安で堪らなかった。こんな一大事なのに風邪を引いて思うように身体が動かないなんて…。辛い。悔しい。俺は彼氏なのにと自分を恥じた。

「ス…スミレは…大事なんだ。家族なんだ」
『分かってます』
リツもアンドロイドを恋人にしている。ソウタの気持ちを理解出来る。

リツと通話を切ってソウタは椅子に座り込みガックリと項垂れた。風邪のせいで頭がガンガンと痛む。いや…それだけではないかもしれない。緊張と不安の身体症状なのだ。

背筋から悪寒が上がった。それなのに身体が熱くて堪らない。熱が更に上がったようだ。風邪など悪化しても構わない。スミレが戻って来るならそれで良い。ソウタは歯を食いしばった。

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