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アンドロイド転生545

茨城県白水村の集落:リペア室

宙空に浮かぶホログラムのイヴが告げた。
『ご報告があります。ヒカリの自宅に出向いてゲンを捕らえようとしていたタケルですが、交渉は失敗に終わりました』

室内の全員がイヴに注目した。
『ウィルスプログラムが変異した以上、仕込んだゲンにも手が負えないそうです』
やるせない声と溜息が上がった。

エリカは心配そうに眉根を寄せた。
「タケルは?どうなったの?大丈夫?」
イヴは頷いた。
『はい。無事です。ホームに戻って来ます』

それはそれで安心だ。元はファイトクラブの戦士のゲンなのだ。戦闘になったら只では済まない。新たな悲劇が生まれなくて良かったのだ。室内の空気は安堵感が漂う。

イヴは微笑んだ。
『もうひとつご報告があります。カガミソウタさんが協力してくれます。皆様もご存知のように彼はコンピュータのプロフェッショナルです』

天才ハッカーでホームの泥棒稼業(街の資産家が非合法で得た金品を強奪する)のバイヤーとして新宿のカフェとは10年の付き合いがある。身元を明かさない謎の人物だった。

4日前のヤクザのスオウトシキとの交渉にプランAをイヴと画策し、成功した男だ。ドウガミリツとすっかり親しくなりヒカリに嵌められ逮捕された一件にも協力していた。

力強い参戦に室内の全員の気持ちが前向きになる。必ずやミオのウィルスプログラムをデリートして彼女を救うのだ。キリが声を上げた。
「よーし!皆んな頑張ろう!」

ミオは寝台に横たわり涙を溢した。
「皆んな、皆んな。本当に有難う」
親友のチアキが微笑んだ。
「お礼はウィルスをデリートした時に言って」

ミオは頷いた。
「うん。そうね。そうだね」
恋人のルークが彼女の頬をそっと包んだ。
「俺達を信じろ。大丈夫だ」

アオイも涙が溢れた。涙腺が弱いのは人間の頃からだ。頭を振る。泣いている場合じゃない。何としても家族を救うのだ。
「ミオ…私の過去はどう?楽しい?」

ミオの恐怖を少しでも和らげる為に2人は繋がり、アオイの前世を見せていた。
「うん。凄く楽しい。人間って本当に素敵。アオイ。有難うね。嬉しいよ」

人間に憧れるミオにとって、アオイの過去を知る事は疑似体験しているようだった。幼少期から成人期。そのひとつひとつの想い出が美しい。アンドロイドだって成長したいのだ。

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