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アンドロイド転生1001

2119年10月15日
都内某所 高校前にて

アオイはシオンの学校の正門前に立っていた。間もなく彼がやって来る。2人は浅草に行く。シオンの撮影があるのだ。アオイはマネージャーとしてやり甲斐を見出して満足の日々を送っている。

2ヶ月前にシオンは華々しく世間に登場した。VOGUE JAPANのサイトで鮮烈デビューしたのだ。予想を上回るほどの注目度だった。シオンの美しい姿に世間は夢中になった。

黄金律の均整の取れた身体と憂を帯びた顔立ち。銀髪、紫色の瞳は宝石のようだ。一瞬を切り取った画像も動いて歩く姿もどれも魅力に溢れていた。まるで神の子だと誰もが絶賛した。

それからオファーが止まなかった。事務所のボスはしてやったりと微笑んだ。いつかシオンをパリコレに出す。スーパーモデルにして世界の頂点に立たすのだ。ボスは野望に燃えていた。

デビューしてたった2ヶ月なのに、もう写真集を出す事になった。18歳と言うかけがえのない時間を切り取らなくてどうする?とボスは考えた。それに波がやって来た時は乗るものだ。

シオンはマネージャーを自分で選びたいと願い、ボスは快く承諾し今に至る。勿論逃亡している事は秘密だがボスは考えもしない。シオンのメイドだとでも思ったのだろう。

アオイは丁寧に頭を下げた。
「では早速マネージャーのマニュアルをインストール致します。ですが芸能の世界はよく分かりません。ご教示願います」

ボスは頷いた。
「何でも先回りすればイイよ。例えば…雨が降りそうだ。傘だ。タオルだとか。風邪予防にビタミンだとか。日差しが強い。遮光だとか」

それならばナニーとして充分に気をつけていた事だ。そうか。シオンは赤ん坊だと思えば良いのか。アオイは笑った。でも大きな赤ちゃんね。また背が伸びた彼を眩しい目で見上げた。

・・・・

「お待たせ」
シオンがやって来てアオイは微笑んだ。
「お帰り。今日の予定は浅草で写真集の撮影ね。体調は万全?問題なし?」

「うん。万全」
村で一緒に5年近くを過ごしたシオンとは砕けた言葉で話す。そう。ホームの人間達はアオイにとって主人ではない。家族なのだ。

浅草に着くと、撮影隊が待っていた。撮影許可をもらっているものの人混みはいつも通り。シオンを見て女性達が色めき立った。特異な容姿で長身の彼はどこでも目立つ。

バルーンの中で着替えた。着物姿で出てくるとギャラリーがどよめいた。カメラマンがやって来て音楽を流した。撮影時には“乗る曲“が大事なのだ。そしてシオンの表現が始まった。

休憩する度にシオンはカメラマンと出来上がりを確認する。どの表情もポーズも美しい。だがシオンはまだまだだと思う。もっともっと出せる筈。僕の実力はまだまだある筈。

その後は何度か服を変え、場所を変え、表現を変えた。ギャラリーはいつまでも付いてきた。中には飲み物やお菓子を渡す者もいる。シオンは快く受け取った。女性達は大喜びだ。

撮影が終了した。シオンとアオイは丁寧に関係者とギャラリーに頭を下げてその場から去った。撮影隊がいるからこそ、ファンがいるからこそ、シオンは自分の夢を実現出来るのだ。


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