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アンドロイド転生928

2118年12月8日 夜
都内某所:ダイニングバー

ヒマリがまたマシンガンだ…。シオンは気付かれないように溜息をついた。いや。大袈裟についたってヒマリは察する事なんてない。ヒマリの向かいの女も同様に会話の応酬だ。凄過ぎる。

今日もシオンはトウマの大学に訪れた。彼の美術サークルのモデルなのだ。部活終了後、トウマにまた誘われた。今回はヒマリの友人も一緒だ。2人は会話の途中で飲んで食べて笑っている。

トウマは微笑んでその様子を見ていた。時々口を挟むが、それがまた女性達の話に火を付ける。シオンは呆れていた。女にも。トウマにも。いや。トウマの忍耐に。なんで疲れないのだ?

ヒマリはいきなり立ち上がった。
「あ。ちょっとトイレ」
「私も行く」
やっと静かになってシオンは深々と息を吐く。

トウマは笑った。
「疲れたろ?2人とも凄いもんな」
「え。あ…はい…」
よく付き合っているなと言いたいくらいだ。

トウマはサワーを飲むと身を乗り出した。
「今度さ?絵画展に出展しようかと思ってるんだ。モデルになってくんないかな?」
「え!」

トウマは恥ずかしそうに笑った。
「けど…俺には…才能なんてなくてさ。勿論…賞なんて貰えないのは分かってる。でも出してみようかなって思ってんの。イイかな?」

良いに決まってる!トウマは続ける。
「でさ。日にちもあまりないから大学だけじゃなくて…うちでもモデルやって欲しいんだけど…」
「え…」

トウマの家で?彼の部屋で?ふ、2人だけで?シオンの胸が高鳴ってくる。頬が紅潮した。トウマが窺うような眼差しで自分を見つめている。恥ずかしくなって俯いた。

「ダメか…忙しいか…」
シオンは慌てた。立ち上がりそうになる。
「だ、大丈夫です!全然忙しくないです!モデルやります。お願いします」

トウマが満面の笑みを浮かべた。
「やった!サンキューな。宜しくな」
シオンの口元が綻ぶ。嬉しくて嬉しくて堪らない。僕とトウマさんの2人だけの…時間…。

「ただいまぁ!」
ヒマリがトウマの背後から抱きついた。ヒマリの目元と頬が赤い。だいぶ酔っているようだ。トウマは振り返って笑う。優しそうに。

ヒマリはトウマの横に座ると彼の肩に寄り掛かった。その甘えたような仕草に瞬間的に怒りが沸く。恋人なのだと頭では分かっていても心はざわつくのだ。本当にムカつく女だと思う。

ヒマリが友人を指した。
「シオン君。彼女と付き合うつもりない?シオン君より年上だけど関係ないよ。いい子だよ」
友人は恥ずかしそうに微笑んだ。

シオンはヒマリをジロリと睨む。だがヒマリは気付かない。ふん。鈍感な女だ。
「付き合うつもりありません。全然ないです」
友人は俯いた。シオンは表情を変えなかった。

「僕は好きな人がいるから」
トウマが少し目を見開いた。
「え!シオン。いるんだ?」
はい。あなたです。そう言いたかった。


※ヒマリの登場シーンです


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