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アンドロイド転生510

新宿:平家カフェ

カウンターでグラスを拭いている店主のキヨシにリツが近付いて囁いた。
「父さん。大変な事が起こった。ミオのメモリにウィルスが仕込まれた」

キヨシは眉間に皺を寄せ小声で応えた。
「何だって?」
「仕込んだ奴はスオウのマシンで逃亡して銀座のホテルにいる。ソウタさんが見つけた」

母親のマユミが不安そうな顔をした。
「ミオはどうなるの…?」
「ウィルスはカウントダウンしているらしい。あと約46時間で解凍される」

キヨシもマユミも呆気に取られて黙り込んだ。燦々と光が差し込む清潔で広い店内は多くの客達のさざめきと静かなクラッシックが流れていたが2人の時間は止まったように感じられた。

リツは両親を見回した。
「今からホテルに行ってくる。アンドロイドをとっ捕まえてホームに連れて行く。で、ウィルスを止めさせる。人間の命令なら聞くだろ?」

マユミは何度も頷いた。
「そうね。こちらの命令に従うだろうから大丈夫ね。早くミオを助けてあげて。お願いね?」
キヨシも心配そうに頷いた。

リツはエプロンを外すとジャケットを羽織り、裏口から出ていってスマートリングを起動した。直ぐに恋人のアリスが出た。
『リツ!どうだった…?』

彼は口元を引き締めた。
「ゲンの居場所が分かった。銀座のホテルだ。俺は今から行ってくる」
『私も行く!直ぐに出発する!』

リツは叫んだ。
「ダメだ!ミオにウィルスを仕込む奴なんだぞ?危険だ。絶対に来るな!」
『じゃあ、リツだって危ないじゃない!』

リツは微笑んだ。
「俺は人間だ。奴は反撃出来ないさ。さっさと捕まえて必ずホームに連れて行く」
『う、うん…』

リツの目の前に呼び出した車が停止した。リツは乗り込むと再度念を押す。
「いいか?絶対に来るなよ!」
『う、うん…分かった』

リツは通話を切ると、またコールする。ソウタの立体画像が浮いた。
「ソウタさん。車に乗りました。20分ほどでホテルに着きます。ゲンはどうしてますか」

ソウタは頷いた。
『まだプールにいる』
「分かりました。必ず捕まえます」
リツの戦いが始まったのである。

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