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アンドロイド転生698

白水村集落:サキと両親

「私も国民になるから」
サキは両親の寝室に行って宣言をした。夫婦は目を見合わせると瞳を輝かせた。娘の将来に光が射したのだ。未来があるのだ。

彼女はアンドロイドのケイと交際しており、村の存亡に関心がなかった。自分の行末に無頓着だったのだ。それが国民になると言い出した。やっと本気になったかと嬉しくなった。

両親はいつかは孫を抱きたいという夢があったが村は近親婚の弊害の発現が多くなり、血を繋げる事が難しい。仕方なくサキの好きにさせていた。ケイと幸せならそれで良いかと諦めていた。

だが国民になるという希望が生まれたのだ。娘は31歳。一刻も早く国の一員となってタウンの誰かを伴侶とし、血を繋げて幸せになって欲しい。孫を見たい。両親に欲が生まれた。

父親は小刻みに頷いた。娘が誇らしかった。
「そ、そうか。じゃあ、タカオに言うぞ」
「子供じゃない。自分で言う。タカオさんは近々、手続きに都庁に行くらしいから私も行く」

サキは両親の部屋を出て行こうとした。後は面倒な話はごめんだ。母親の声が追いかけた。
「ケイとは?別れるのね?」
サキは聞こえない振りをして立ち去った。

サキはケイの部屋に行く。扉を開けて彼を見ると飛びついて抱き締めた。誰が別れるものか。
「ケイ…。私、国民になる。タウンに行こう。2人で街で暮らそう。村は嫌い」

2人は見つめ合った。交際して7年。気持ちが変わる事はなかった。一生の恋なのだ。唇が重なった。その優しい触れ合いにサキは幸せになる。ケイとの時間は静謐なのだ。

以前、サキの母親は尋ねた事がある。どうして恋の相手がアンドロイドなの?と。サキは首を捻った。どうしてなのかな。好きになった相手がたまたま人間じゃなかっただけかな。

ホームには数少ないが自分と同年代の男達がいる。サキが幼い頃は両親はリョウと結ばれて欲しいと思っているようだったが、サキにとって彼は兄であり異性とは思えなかった。

時が経ち遺伝子の偏りでどんどんメラニン色素に異変を来していく世代が増えてくると村内での恋愛が危ぶまれるようになってきた。そんな時にケイがホームの一員になった。

ケイは容姿が整っている。アンドロイドは当然だ。人間にとって好ましい外見にする事が重要なのだ。でも見た目が素敵だから…それだけではない。好きになるには色んな要因がある。

サキが19歳の時にケイは村にやって来た。会った瞬間、胸がときめいた。ケイの仕草、微笑み。声。何もかもが素敵だった。彼の穏やかな性格にも惹かれた。気がつくと目で追っていた。

一緒になる機会を少しずつ増やした。彼を知れば知るほど好きになった。欲求が大きくなってきた。手に触れたい。腕を組みたい。私だけを見て欲しい。そして…キ、キスをしてみたい。

それから5年が経ち24歳の時にケイに告白をした。ケイも自分を好きだと言ってくれた。2年後、とうとう肉体が結ばれた。彼と一生共にすると決めたのだ。何があっても。

サキの意思は固かった。私は人間とは付き合わない。だから子供なんていらない。31歳の自分。25歳クラスのケイ。これからどんどん離れていく。それでも良い。一生の恋なのだ。

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