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アンドロイド転生605

茨城と福島の県境の麓:山道

ルイの頬に水滴が当たった。空を見上げた。やっぱり雨が降って来た。天気情報などなくても山で育った彼には分かる。リュックを下ろし中からレインコートを取り出して羽織った。

雨は直ぐに強くなり、ぐんぐんと空気が冷たくなって来た。これは非常にまずい。モネとの通話の際に立体画像の彼女の服装を確認した。軽装で山に適したものではなかった。

ルイはアオイから服の一式を借りた。早く着替えなければならない。これから夜だ。益々気温は下がっていく。3月中旬の山は寒い。時には雪だって降るのだ。更に危険が増す。

宙空に浮かぶホログラムの地図を見た。赤く発光しているのが目的地だ。モネの執事のザイゼンがいる。立体画像のザイゼンは首をずっと横に傾けて手で支えていた。頚椎が折れたそうだ。

ルイの指のスマートリングが鳴った。応答するとザイゼンが目前に浮かんだ。
『ルイ様。斜面を登っていますが…この首を支える為に片手では…かなり困難です』

ルイはがっかりする。
「まだモネには会えてないんですね?」
『はい。聴覚を最大限に上げていますがモネ様のお声を捉えられません』

先程モネは目覚めて自分の状況を理解し執事の名を呟いた。だがその声はあまりに小さくてザイゼンには届かなかった。雨が樹々を打ち付けてその音が世界を包んでいた。

ルイは口元を引き締めて頷いた。
「その辺りはよく分かります。急いで行きます。あと10分位で着きます」
『分かりました。お待ちしております』

ルイはリュックを背負い直す。冷気が彼を包んだ。吐く息が白かった。
「モネ。絶対に行くからな。待ってろな」
ルイは走り出した。


県境の麓:山間の斜面の下

「ど、どうしよう…。無理…」
木の杖で自分を支えて何とか歩いたがモネは斜面を登る事が出来なかった。先程足首を確認した。酷く腫れていた。折れたのかもしれない。

雨は激しくなって来て全身を包む。服は下着までびっしょりだ。何度も顔を拭った。寒気で身体がガタガタと震える。手足が痺れていた。モネは辺りを見回し、雨宿りが出来る場所を探した。

何故ザイゼンは助けに来ないのか。熊と遭遇した時、モネを逃しザイゼンは自分に注意を引きつけた。熊は彼に向かって走り出した。まさか…襲われて機能停止になったのか。

モネの心臓が掴まれたようになり恐怖に陥った。ザイゼンが死んでしまったらどうしよう。物心ついた時から共に暮らしている家族なのだ。別れはナニーのサヤカで懲り懲りだ。

いや…。その前にこんな状況では自分の命も危うい。誰か助けに来てくれないものか。モネは熊を恐れて叫ぶ事が出来ない。麓まで迎えに来ると約束したルイに今は賭けるしかなかった。

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