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アンドロイド転生790

2118年6月17日 朝
東京都港区:モネの通学路

爽やかな新緑の並木道。アオイはモネと並んで歩く。骨折したモネのサポート係となって3ヶ月。高校生の彼女の送り迎えもするのだ。モネは遠慮するがアオイは譲らなかった。

モネは松葉杖をついてリズミカルに歩く。
「トウマは薬剤師になるんだって。いつか社長だからね。勉強を頑張ってるよ」
「薬剤師は6年制ですからね」

トウマは秋に24歳になる。順当にいけば来年卒業するだろう。カノミドウ家は300年以上続く製薬会社だ。そう。シュウも6年間勉学に励み、薬剤師の資格を取っていた。懐かしい思い出が蘇る。

「モネ!カー!お早う!」
モネのクラスメイトが声を掛けてくる。アオイの別名のサヤカを友人達もニックネームで呼ぶのだ。アオイはすっかり周知されていた。

アオイもにこやかに挨拶を返す。学校に到着すると教室まで入って行き、背負っていたバッグパックをロッカーに仕舞った。モネに頭を下げる。
「ではお勉強を楽しんで下さい」

「カー!またね!あとでね!」
アオイとモネは微笑んで手を振り合う。夕方になったらまた迎えに行くのだ。過保護でも良いのだ。大事な大事なモネなのだから。

アオイは帰宅して、その後はザイゼンと共に家事に勤しむ。サクラコはアトリエに篭った。昼食の時間になるとアオイはサンドイッチを持って行く。サクラコは絵筆を握り夢中だ。

アオイはサクラコの作品を繁々と眺める。彼女の技術はオールマイティで油絵も水彩画も多様だ。静物も人物も描く。世の中から才能を認められて画家として順風満帆である。

リビングに戻るとやがて2時のクラスの生徒達がやって来た。アオイはザイゼンと共にお茶でもてなす。レッスン前のひと時を楽しむのが通例なのだ。生徒達がお喋りに花を咲かせ始めた。

リビングの出入り口に長身で細身の男性の姿が現れた。アオイの胸が緊張でキュと高鳴る。トウマだ。トウマはにこやかに生徒達と挨拶を交わす。ふと顔を上げてアオイを見た。

アオイとトウマの視線が交差する。トウマは呆気に取られた顔をした。
「サ、サヤカ(アオイ)…」
アオイは深々と頭を下げた。

トウマはアオイの側にやって来た。キョロキョロと辺りを見回し小声になった。
「なんでここにいるんだ?」
「色々とありまして…またお世話になっています」

トウマは眉間に皺を寄せた。
「まさか泥棒に来たんじゃないだろうな?それとも下見か?」
「とんでもありません…!」

「モネ様の骨折のサポートです」
「骨折?」
「はい。左の足首です。3ヶ月になります」

サクラコがやって来た。場が一層華やかになった。彼女もソファに座りお喋りを始めた。生徒達は其々の近況報告や出展などの話題に盛り上がる。サクラコは微笑んで受け答えした。

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