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アンドロイド転生920

2118年11月25日 
茨城県白水村集落:中庭

「じゃあ。エイト。いい?いくよ」
「はい」
キリはエムウェイブをアンドロイドのエイトに向けて照射した。エイトは即座に倒れた。

キリはエイトに近付いてしゃがみ込んだ。
「どんな感じ?」
「全く動きません。指ひとつも」
「そうか…」

キリはアリスが持って来たエムウェイブ(アンドロイド制御装置)をエイトに試していた。TEラボが造ったデバイス。マシンが暴走した時にコントロールする為のものだ。

アリスも一緒に見ていた。
「ラボの研究員からゲンは騙し取ったって」
キリは呆れた顔をする。
「マシンが人間を騙すなんてやれやれだわ」

エリカもそうだったが、自我が芽生えたアンドロイドには自己の欲求を最優先するタイプもいるようだ。エリカも自分勝手で横暴だった。だからこの世から去ってもらった。後悔していない。

キリはエムウェイブをオフにした。エイトの拘束が解けて彼は起き上がった。
「ありがとね。しかしTEラボは凄い物を造ったね。こんなもんが世に出たら怖いわ」

キリはリペア室に戻るとエムウェイブを繁々と眺めた。形状はペンタイプで手に収まる。これなら誰でも使いやすい。ペンの先から電磁波が照射されるとアンドロイドは機能不全になる。

波動がマシンの活動を制御するのだがこれは人間にとっても悪影響だ。波長には電波、紫外線、可視光線、X線がある。紫外線などエネルギーが大きいものは遺伝子を傷つける。

アンドロイドを機能不全するくらいなのだ。エネルギーレベルは相当高いと思われる。人間に照射しても4肢の自由は奪われないが影響は大きいだろう。本当にこんな物が世に出るのか?

エムウェイブを利用して人間を傷付ける者がいるかもしれない。平和な国民性と言えども悪意のある者だって少なからずいると思える。キリは厳しい顔してやれやれと頭を振った。

アリスがリペア室に入ってきた。荷物を持っている。雪が降る前に新宿に帰るのだ。
「昨日着いてまた帰るなんて忙しくてごめん」
「ううん。ホームに戻れて気分転換になった」

2人は部屋を出ると里の出入り口にやって来た。キリはアリスの頭に手を当てて髪をまさぐった。親しみの現れだ。50歳のキリにとって22歳モデルのアリスは娘なのだ。

アリスはニッコリとする。
「キリ。たまには新宿に来て。別の風に当たるといいよ。リョウだってイギリスが楽しいみたいだし。帰って来ないもんね」

キリは白い歯を見せた。
「ホントだよね。あのリョウが凄く変わったよ。頭はボサボサ。服はヨレヨレ。髭はボーボーだったのに。マトモになったよ」

アリスは微笑んで手を上げると山を降って行った。キリはアリスの笑顔が嬉しかった。エリカを機能停止した自分を恨んでホームから出て行ったから。でも何事も時が解決するのだと思った。

山を降りながらアリスはつらつらと思う。キリは妹分のエリカに制裁を下した。弁明の機会も与えずに。分かってる。どんなに家族だと言ってくれてもマシンと人間には大きな差がある事を。


※アリスがキリを恨んだシーンです


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