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アンドロイド転生501

渓流

茨城県の県境のホームから1時間程。タケルは大きな魚を釣り上げた。
「エイト!網で掬ってくれ」
「はい」
2人は魚を獲るとケースに移した。

エイトとは、キリとリョウが造った戦闘用マシンでルークと共にクラブ夢幻で戦い生き残った男性型アンドロイドだ。番号がNo.8だった。名前を決める時に本人がエイトが良いと言ったのだ。

アンドロイドのケイがやって来た。
「12時半を過ぎた。昼メシにしよう」
タケルは頷いた。
「お、そうだな。皆んなに声を掛けよう」

タケルは5人の子供達を集めた。ケイはバッグからおにぎりやサンドイッチや飲み物を出した。エイトが釣竿を片付け始めた。陽射しは暖かく、渓流の流れは穏やかだ。

ケイは子供達に食事を配った。
「さぁ。みんな座って。食べるぞ」
子供達は元気良く返事をする。直ぐに食べ始めた。旺盛な食欲を見せる。

タケル達は皮膚の保湿のために水を飲む。1人の少女がタケルを見上げた。
「ミオちゃんのお披露目は…もう…しちゃったかなぁ?見たかったなぁ」

タケルは頷いた。
「ああ。そうかもな。帰ったら祝おうな」
ミオは少女から大人の身体に換える事になった。彼女の望みが叶ったのだ。

タケルは早咲きの桜を眺め、陽光を全身に浴びて爽やかな気持ちだった。数日前はあんなに怒りと憎しみに駆られていたのに、今では釣りを楽しんでいる。全く信じられない事だ。

スオウを倒さなくて良かった…。人を殺めなくて本当に良かったと今では思う。アオイに感謝していた。最初はアオイの言葉が煩わしく感じたものだったが今ではよく分かる。

アオイが何度も言った言葉が思い出された。
『タケルは人を殺めるために生まれ変わったんじゃない…!幸せになる為よ!』
本当にそうだと思う。そして俺は今…幸せだ。

日常に戻り、今日は子供達と釣りにやって来た。大漁だ。ホームの人達が喜ぶだろう。そうだ。明日は久しぶりに猪でも獲りにいくか?肉など皆んな滅多に食べられないのだから。

タケルは平和で平凡である事の喜びを感じていた。3日前の朝、スオウとの戦いから帰還し、損傷した身体を直し元通りになった。失った眼球は茶から緑になった。これも悪くない。

タケルは自然に笑顔になった。ミオは念願の大人になれた。彼女は俺の想い出を知りたがった。妹のミチルの成長を喜んでいた。残念ながら ミチルの人生は13年で終わってしまったが…。

ミチル…。ミオを見守ってやってくれよ?アイツも妹みたいなものなんだ。お前の代わりにミオが大人になるよ。な?それでいいな?ああ。ホームに帰るのが、楽しみだ。

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