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アンドロイド転生688

白水村集落:キッチン

タケルの暴挙は瞬く間に集落内に知れ渡り、人々が挙ってやって来た。タケルはルークに床に押さえ付けられており身動きが出来なかった。村長がタケルの前に躍り出た。

「何をしている⁈」
タケルの顔は怒りに染まり息遣いが荒かった。
「エリカはマシンの範疇を越えた!俺は許さない!死んでも許さない!」

村長は眉間に皺を寄せ、エリカを振り返った。
「何をしたんだ?」
「タケルの為よ…騙されていたの…」
「違う!何もかも自分の為だ!」

タケルは起き上がろうともがく。ルークを加勢してエイトもタケルを押さえ付けた。
「エリカ!俺はお前が憎い!憎い!」
誰しもが息を呑みこの事態に恐れをなした。

キリは困惑していた。
「エリカがドローンで追ったの。ね?エリカ、何をしたの?ここまでタケルが怒るなんて…」
エリカは無言だった。

村長がルークを見た。
「タケルを会議室に連れて行け。キリ、エリカの損傷具合を確認しろ。一同、解散」
ルーク達はタケルの両脇を掴んで歩き出した。

キリはエリカをリペア室に連れて行く。だがエリカの様子はその場で見る限り問題はなさそうだ。一同は息を吐いて其々の持ち場へと戻った。何があろうとも日常は続くのだ。


集落:会議室

タケルは椅子に座っていた。落ち着きを取り戻した為、ルーク達の拘束はなかった。だが表情には怒りが溢れており何やら決意があるようだった。人間は村長を始め、数人の男達がいた。

村長はテーブルに腰掛け腕を組んだ。
「いいか。何があろうとも暴力はいかん」
「分かっています」
「エリカは何をしたんだ?」

村長は疑問でならなかった。エリカの熱烈な想いを知っているタケルが何故暴力を振るったんだ?いつも穏やかで冷静なリーダーの彼が。
「今となってはもうどうでもいい事です」

村長はこの騒動の罰を言い渡さなければならない。村では人間もアンドロイドも暴力は許されないのだ。村長は息を吸い込んだ。
「ちゃんと言い分を聞かないと沙汰を下せん」

タケルは首を振った。
「必要ありません。結構です。僕は村を出て行きます。エリカの顔は見たくないし、暴力を振るった罪は大きいです。覚悟をしていました」

人間達は驚いた。タケルが…村を出ていく…?
「どこに行くつもりだ」
「さぁ…分かりません。野良マシンですが…何とかなります」

タケルは立ち上がると深々と頭を下げた。
「9年間、有難う御座いました。それでは行きます。お元気でお過ごし下さい。村の未来が幸せであるようお祈りしています」


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