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アンドロイド転生904

(回想)
2118年10月26日 午後
スオウ組:事務所

『ドラッグの顧客データを警察に渡すよ。そうすればスオウ組は終わりだね』
スオウ組の幹部のトミナガは忌々しく口を歪めた。何だ?このクソ野郎。脅迫か?

通話の相手の言い分はこうだ。スオウ組の管理している戦士アンドロイドの契約者の権利を譲って欲しいらしい。一体何が目的なんだ?契約者になってバトルでもさせる気か?

いや。それよりも何よりもクラブ夢幻は閉鎖中だし、マシンなど一体もいない。全て機能停止になったのだ。トミナガはそう思い込んでいた。ゲンが逃亡した事を知らないのだ。

今年の3月に起きたクラブ夢幻の事件で世間は大騒ぎになった。マシンがバトルしてそれに巻き込まれた人間が84人も犠牲になったのだ。スオウ組は経営者として責任を追求されている。

だがスオウとしては反論したい。アンドロイドが勝手に暴走したのだ。ラボに責任があるだろうと。だがラボも言い張る。命令したのは誰だと。それはスオウの長男のマサヤだ。

スオウとマサヤは拘留されたが保釈金を払って現在身柄が一時解放されてはいる。しかし警察は捜査中だ。夢幻の乱闘事件と併せてドラッグの取引の尻尾を掴んで逮捕するつもりらしい。

『もしもし?聞こえてる?』
トミナガはハッとなる。これはオヤジ(組長)に相談した方が良いのではないか。
「ああ。こちらから連絡する」

トミナガは通話を一方的に切ると、まず着歴を調べた。だが履歴がない。消去したようだ。そうだろう。ドラッグ取引の顧客を見つけるくらいだ。コンピュータに精通しているのだ。

トミナガは舌打ちした。オヤジの手を煩わせたくないが組の危機となればやむ得ない。スオウの部屋のドアをノックする。扉が開きスオウが椅子に悠然と座り窓を見ていた。

トミナガは語った。見知らぬ男が連絡して来た。スオウ組のドラッグの取引データを全て握っており、アンドロイドの契約者の権利を譲ればデータを消去する。拒否すれば警察に渡すと脅されたと。

スオウは渋い顔をする。
「着歴は調べたんだな」
「はい。消去されてます。相手はどこの野郎か分かりませんがきっとまた連絡が来ます」

「顧客データは本物なんだな」
「はい。間違いなくうちが取引したものです」
「警察に渡されたらうちはアウトだな」
「はい」

スオウはこめかみを叩いた。そんな大きな脅迫のネタを掴んでいながら目的はアンドロイドの契約者の権利を譲れだと?たったそれだけか?
「マシンは全部機能停止だろ?」

「ええ。舎弟の話では…。待って下さい。調べてみます。確か…ゲンという名でした」
トミナガは宙空に向かって声を上げた。
「おい?ゲンは機能停止になったんだろう?」

天井のスピーカーからAIが応答する。
『いいえ。機能しています。GPSで追跡します。現在、東京都港区×丁目×番地におります』
スオウとトミナガは目を見開いた。


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