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アンドロイド転生504

4日前の深夜。新宿歌舞伎町の路上。ミオにウィルスを仕込んだ男性型アンドロイドのゲンは戦いに参加する事なくクラブ夢幻から立ち去った。余裕の笑みを浮かべ軽やかに歩いていた。

ゲンはクルクルと回ったり、ジャンプして生垣に登ったり、月を見上げたりと何とも楽しそうな様子だ。夢幻から逃げ出して自由を謳歌している。この日をずっと夢見ていたのだ。

ゲンは歌い出しそうな雰囲気でそのまま歩き続けた。疲れを知らないアンドロイドならではである。ゲンは銀座に辿り着いた。高級ホテルのペニンシュラに入って行く。

カウンターにやってくると、ゲンはフロントのAIに宿泊する旨を伝えた。AIは慇懃に挨拶をして宿泊の手続きを取った。アンドロイドがホテルに滞在するのは至極当たり前の事だった。

人々はホテルを利用する際に秘書や執事やナニーなどのアンドロイドを同行させる。同室や隣室に部屋を取るのだ。ゲンが単体でやって来ても問題はない。後で主人が来ると言えば完了だ。

資金は主人で資産家のスオウトシキの金を自分のモノにした。ウィルスプログラムを作る程の能力があるゲンには主人の金を奪う事など容易かった。かなりの大金を掴んだ。

ゲンは室内に足を踏み入れた。清潔で高級な佇まい。ファイトクラブのマシンだった自分がホテルの住人なのだ。楽しくてたまらない。窓辺に近付き外を見た。明けの明星が輝いていた。

服を脱ぎ、全裸になるとベッドに横になってベッドサイドの電源から充電をした。温かな熱を感じ満足感を覚える。そのままスリープモードにした。ゲンの瞼が閉じた。

昼になってゲンはテレビのニュースを見た。世間では大騒ぎだった。歌舞伎町のクラブ夢幻で多くの死者が出たのだ。責任者のスオウトシキと愛人のクレハ。息子のマサヤが連行された。

ゲンは含み笑いをした。しまいに高笑いになり腹を抱えてベッドでゴロゴロと転がった。
「ザマアミロ!お前らは当分出て来られないぞ!マサヤなんて実行犯だからな!」

ゲンには主人の彼らに対し恨みがあった。誕生して3ヶ月。短い期間ではあったものの夢幻に派遣されファイトクラブの戦闘用マシンとして地獄の日々を過ごしていたのだ。

2ヶ月程前に、生存を渇望する心が生まれ自意識が芽生えた。戦う事に嫌悪を覚えた。夢幻から逃げ出したい。自由になりたいと願った。だが所詮はアンドロイド。従う事が存在意義。

そんな自分に絶好の機会が生まれたのだ。難なく逃げ出し今に至る。高級ホテルの住人になったのだ。今の自分に相応しい。鏡に映る容姿に惚れ惚れとした。そうだ俺は美しい。

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