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アンドロイド転生788

2118年6月17日 午前7時
東京都港区:タカミザワ家のダイニング

「今日、トウマ君が来るって」
朝食の席でサクラコが唐突に言い出した。モネはフォークの手を止めずに頷いた。
「あっそう。久し振りだね」

サクラコはオレンジジュースを飲んだ。
「大学が忙しいけど、来れる時は来たいんだって。午後のレッスンだから2時ね」
「私の骨折を知ったらびっくりするかもね」

アオイも驚いていた。
「あ、あの…トウマ…様ですか?カノミドウトウマ様…。今も習っているんですか?」
そう。画家のサクラコの生徒だった。

トウマは子供の頃から絵を描くのが好きで、小学生の時にサクラコから師事を受けたのだ。そこそこの技術はあったものの才能はなかった。本人も認めており趣味の範囲に留めていた。

サクラコはニッコリとする。
「前みたいにしょっちゅうは来ないけどね。やっぱり絵を描くのが好きなんだって。サヤカ(アオイ)がいるからびっくりするだろうね」

モネがアオイを見つめた。瞳が煌めいた。
「イケメンになったからびっくりするよ!6年?7年?まぁ…久し振りでしょ?会うの」
「え…あ…いえ…」

トウマとは約半年前の年末に会っていた。カノミドウ家の金品を奪いに行った時に。結局ダイヤモンドは返却しホームは収穫はなかったが、アオイにとっては大きなものを得た。

元婚約者のシュウと再会を果たしたのだ。シュウはアオイが生まれ変わった事を信じてくれた。この日をどんなに夢見たことか。アオイはずっと運命を呪っていたが、やっと報われたのだ。

彼女は今から96年前の2022年。24歳の時に暴走車に撥ねられて事故死した。3ヶ月後には挙式をする筈だったのに、シュウと永遠の別れになってしまったのだ。だが80年後に目覚めた。

何の因果か輪廻転生したもののアンドロイドの身体であり、人に従事する身の上である。家族もシュウもいない。様変わりした日本の風景は馴染めず寂しくて孤独で堪らなかった。

その翌年。運命の歯車が動き出した。7歳の少年トウマと知り合ったのだ。彼はシュウの曾孫だった。シュウの面影を宿すトウマの存在がアオイの生きる喜びになった。

そんなある日、トウマの弟の誕生日会に誘われてモネと共にカノミドウ邸に訪れた。アオイは老いたシュウ(107歳)の姿を目撃した。また死んでしまうかと思うくらいの衝撃だった。

まさか彼が存命しているとは思いもしなかったのだ。嬉しくて堪らなかった。寂しくて泣いて過ごしていた毎日に光が差した。それ以降、何とか自分の存在を彼に伝えようとした。

親友のサツキも協力してくれた。だが凡ゆる努力をしたものの再会は叶わなかった。自分の立場をつくづく思い知った。そう。一介のナニーアンドロイドなのだ。人間と会うのは困難だ。

それから11年後。アオイは派遣期間が終了し製造されたTEラボに戻る事になった。シュウとはもう2度と逢えないのだと漸く諦めがついた。だが運命の歯車は止まらなかった。

ホームに救われ、命が繋がったのだ。そして3年後。泥棒稼業のターゲットとなったのがカノミドウ邸。アオイはシュウに会うつもりで夜襲に参加したが期せずしてトウマとも再会したのだ。


※幼いトウマがサクラコの絵画教室に通うエピソードです


※大人になったトウマとの再会のシーンです


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