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アンドロイド転生726

白水村:リペア室

タケルを愛するあまりに常軌を逸したエリカは彼の恋人のハスミエマを追い詰めた。その手助けをしたのがリョウだ。コンピュータスキルを活かしてエマを貶めたのだ。

リョウの告白にキリは憤った。
「馬鹿!馬鹿!ホントに大馬鹿野郎だよ!」
リョウは項垂れて顔を覆った。
「ごめん…ごめんよ…」

暫くするとリョウはボソボソと呟いた。
「ハスミエマは…自殺を図ったんだ…」
「え⁈」
「未遂で終わったけど…」

リョウはイヴからエマは自殺を図ったと聞いて自分の罪の重さを知った。申し訳ない気持ちでいっぱいだった。キリに打ち明ければ非難されるだろうが黙っている方が辛かった。

エマが自殺未遂を図った事は世間には暴かれなかった。もしそれが知られたら同情する声もあったかも知れない。人には労わる心があるものだ。それに自分の発言が人を追い詰めたと気付くだろう。

残念ながらエマはバッシングされ続けた。世間は親友を裏切った卑怯な女としてしか見なかった。誰も彼女を擁護しなかった。とうとうエマは日本から逃げ出した。両親の勧めで渡英したのだ。

大衆はそれを良しとしなかった。エマは世間を騒がせて悠々と日本から去ったのだと、更に非難したのだ。だがそんな騒ぎも直ぐに終息した。物事に執着をしない現代の人々は飽きるのも早い。

今では誰もエマについて語らない。だがゴーストを暴露された画家のオクザワヒカリが親友のエマに恨みつらみを吐いていた。ヒカリは詐欺を働いたとして裁判が始まるのだ。

キリは呆然となった。リョウから語られる悪事の数々。なんて馬鹿な事をしたのだ。彼は従兄弟だが弟みたいなもので目をかけていた。仕事も同じ道を選んだ事が嬉しかった。

それなのに、そのコンピュータスキルを使って身の保身に走ったのだ。腹が立つし悔しくて残念でならない。エリカに脅迫されたとは言え、元々人の裸体を盗撮したのが罪ではないか。

そして何の否もないハスミエマを死を選ぶ程に追い詰めた。キリは思い付く。そうか…!タケルはそれに気付いたんだ。だから主犯のエリカを襲ったんだ。そうだ。あの時のタケルは異常だった。

アンドロイドでも女性型とは柔術の演習さえも嫌がっていたタケルがエリカの首を折ろうとしていた。殺す勢いだった。ルークとエイトがタケルを羽交締めにして何とか抑えたのだ。

村長に何故かと問われてもタケルは理由を言わず、弁明をする事もせず、村から出て行った。タケルらしいと言えばそれまでだがそんな背景があったのかと思うと哀れでならない。

タケルは優しいアンドロイドだった。エリカの愛には応えられなくても、まるで妹に接するように可愛がっていた。自分がホームに連れて来たのだと言う責任があったのかもしれない。

そんなエリカがエマを窮地に追い込んだと知った時はどんな気持ちだったろうかと思う。自分の存在を呪ったかもしれない。村を去り、1人になってしまった彼は今…何を思うのか…。

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