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アンドロイド転生547

平家カフェ リツの両親の寝室

「お父さん…寝た…?」
「ん…?なんだ?」
「今日は…本当に良かったわね」
「うん。そうだな」

ドウガミキヨシとマユミの寝室。リツの両親は横になっていた。長い1日だった。息子は昼間に家を出ていくと、現行犯逮捕され連行された。青天の霹靂だった。不安で堪らなかった。

だが、夫婦は息子の無実を信じていた。リツが罪を犯すなどとはこれっぽちも思わなかった。案の定、被害届は取り下げられ相手は無実を供述したのだ。現場の動画も決め手になった。

夜に親子は再会しリツの恋人でアンドロイドのアリスは茨城県から駆け付け、帰らなかった。今は息子の寝室で休んでいる。キヨシもマユミも息子のアイデンティティを尊重していた。

アンドロイドと恋をしたって良いではないか。それにアリスはとても良い娘だ。そう…。娘。素直で心が清純で温かい。息子達は衝突する事もなく上手くいっている。付き合いは長い。

でも、ほんの少し…ほんの少しだけ…思う。孫を見てみたいと。カフェの客に幼い子供が来るとリツは上手にあやす。子供もよく懐く。人畜無害のオーラでも出しているのだろうか。

「お父さん…孫…欲しい?」
「あ?いや…。無理だろう」
「そうよね。アリスがいるものね」
「いや、そうじゃなくて」

マユミは分かったとばかりに頷く。夫の言わんとしている事を理解する。そう。そもそも…。平家の落人の子孫の我々は少数民族なのだ。タウンとは相容れないのだ。

自分達は新宿で暮らし、住民登録も戸籍もある。日本国民として登録はしているもののリツと同じようにアイデンティティがあるのだ。誇りがあるのだ。ホームの人間だという。

だからホームの人々が婚姻対象だ。自分達もそうだった。もし息子が女性を求めたとしたら茨城県の集落の人間だった。自分達の孫はいつかそうやって誕生すると思っていた。

だが昨今、近親婚の弊害が生まれている。遺伝子の偏りで村の半数以上の色素が薄い。金髪銀髪赤毛や、瞳の色は青や緑、銀などだ。まだ深刻な問題を抱えた子供は誕生していない。

いずれは覚悟をしなければならない時が来る。我々は衰退する運命なのだ。国からは所属せよと打診があるのにホームの人々は拒否をしている。タウンとは相容れないと。

「お父さん…私ね。思うのよ。タウンの人達って悪い人ばかりじゃない。良い人が大多数。だから国民になれば良いと思うの。そしたらホームには新しい血が入るのよ。存続出来るのよ」

キヨシは頷いた。マユミは夫を見つめた。
「ね?今度、久し振りにホームに行ってみよう。私達の気持ちを伝えよう」
「うん。そうだな…そうしよう」

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