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アンドロイド転生780

2118年6月6日 午前10時
東京都新宿区:都庁

リョウは3階まである吹き抜けの建物を見上げ呆然となった。なんて広くて大きいのだ。これを人間が造ったのか。次いで周囲を見渡す。多くの人が行き交っている。一体何人いるのだろう?

リョウは国民登録の為にタカオと共に都庁にやって来た。かつ渡英するのでパスポートを作るのだ。全ての手続きがここで出来るとタカオは言った。まずは総務課に向かう。

担当者と会って手続きを進めていくが、あまりにも煩雑でリョウは目を白黒させた。別の課の担当者は室内の立体画像を見せて微笑んだ。
「お住まいはどれが宜しいですか?」

リョウは首を横に振った。
「いや。僕は東京には住みません。国民になったらそのままイギリスへ行きます」
「イギリスからお戻りになったらどうしますか」

リョウは黙り込んだ。その後…どうするか。イギリスには2日程度のつもりだ。エマに謝罪したら直ぐに日本に帰るのだ。そしたら…どうしようか。ホームに戻るのか…。それとも…。

タカオがリョウを見やった。
「東京で暮らしてもいいんじゃないか。お前はまだ若いんだ。何もホームで一生を終えることはないぞ。住まいを確保しておけ」

リョウは納得して部屋を決めた。その後も様々な手続きがあった。国民になる為にはこんなにもする事があるのかと驚くばかりだった。最後にパスポートの申請をして受理されたのは夕方だった。

担当者はニッコリとする。
「国民票とパスポートは20日後に発行されます。お渡ししたスマートリングに反映されます。世界のどこでも行けます。楽しんで下さい」

「あ、あの…イギリスに行くにはどうしたら良いんですか?」
「スマートリングから旅行代理店のアプリで手続きを行って下さい」

2人は礼を言って立ち上がるとエントランスに向かった。リョウは深々と溜息をついた。
「いやぁ…参ったなぁ。やる事がいっぱいあって。こんなに時間が掛かるとは思わなかった」

タカオは笑った。
「俺だって思わなかったぞ。まさかお前がイギリスに行くと決めるなんてな」
「ちゃんと同じ空間で謝るんだ。それが誠実だ」

リョウの渡航の目的はハスミエマへの謝罪だ。タケルを想うエリカに協力してエマを貶めた。自分の保身の為にあまりにも非道な事をした。許してくれるとは思わないが行くのだ。

都庁から出た。外はまだ明るいが西の空がピンクと薄い紫色に染まっていた。多くの人が行き交っている。リョウは目を丸くした。
「なんでこんなに大勢歩いてるんだ?」

タカオは新宿には何度も訪れて慣れていた。
「仕事や学校の帰りや…買い物や…食事だな」
「都民は600万人か…。本当に凄いわ」
村民は60人。リョウはそこしか知らない。

2人は駐車場にやって来ると車に乗り込んだ。今晩は平家カフェに泊まるのだ。タカオは笑った。
「リツはスパに行くって言い出すぞ。凄く広い風呂なんだ。リョウはまた驚くだろうな」

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