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アンドロイド転生389

中国福建省:ワン・イーチェンの邸宅

爆弾取引をしないかと言うスオウ組からの突然の誘いに、ワン兄弟の兄のイーチェンは不服を露わにしていた。イヴは微笑みかけた。
『今晩中にお話をした方が良いと思います』

イーチェンは眉間に皺を寄せた。
「あ?なんだと?」
なんて生意気なAIだ。俺に向かってほざくとはふざけている。怒りが沸いてきた。
「うるせぇ!消え失せろ!」

イヴはイーチェンを見下ろした。どうも彼は導火線が短いようである。理性的な心がないものか。彼にとって今は爆弾取引よりも麻雀の行方の方が気になるらしい。やれやれだ。

イヴは丁寧に頭を下げた。
『申し訳ありません。でも少しだけお耳を貸して下さいませんか。決して損な話では御座いません。必ずや御納得して頂けます』

弟のハオランが兄を宥めた。
「兄貴、まずは話を聞こうぜ」
イーチェンは椅子にふんぞり返って腕を組んだ。指を叩く。早くしろと言わんばかりだ。
「1分だ。それ以上はしねぇぞ」

イヴはニッコリとした。
『有難う御座います。では売り手を申し上げます。イタリアマフィアのルチアーノ家です』
ワン兄弟は顔を見合わせた。

イタリアの爆弾の品質は世界1位だ。去年購入したイスラエルの製品は不発弾ばかりで話にならなかった。イタリアと取引が出来るならば悪くない。イーチェンの怒りが少し収まった。

しかもルチアーノ家は名高くイタリアマフィアの中でも最大勢力を誇るファミリーだ。ワン兄弟がルチアーノと親しくしていると噂になれば敵もおいそれとは手出しが出来まい。

ハオランの瞳は輝いた。
「兄貴!良い話じゃねぇか!イタリアとは付き合いがなかったがこれを機に密になれるってもんよ!」
イーチェンが顎をさすった。
「そうだな…」

イヴは申し訳なさそうな顔をした。
『お勧めの案件なのですが、1時間以内に良いお返事を下さらないと、アメリカのファミリーと取引をすると言っています』

イーチェンの眼光が鋭くなった。
「なんだと?」
ハオランが目を見開いた。
「な、なんだと?冗談じゃねえ!」

イーチェンが憎々しげに虚空を睨んだ。
「ルチアーノめ。強気になりやがって」
ハオランは酒を煽ってテーブルに打ちつけた。
「兄貴!負けるものか!」

イヴはほくそ笑む。買い手が他にもいるとなれば商品がより魅力的に見えてくるものだ。先手を打ちたくなるだろう。人間の欲の心理をついたイヴの作戦である。これで2人を手中に収めたも同然だ。


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