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アンドロイド転生847

2118年7月31日 午前3時
東京都千代田区:帝国ホテル
客室フロア:ゲンの部屋

今から数時間前のこと。ゲンはいつもの様にターゲットを決めてアンドロイドを追った。巧みに騙して公園に誘い出しエムウェイブを照射した。相手は呆気なく崩れ落ちた。

4肢を折る度に破壊音がするのが楽しかった。使い物にならなくなった腕をグルグルと回して肩から抜くと相手は悲鳴を上げた。ゲンは苦笑する。
「人間のような真似をしないで下さい」

ターゲットは主人の名前を何度も叫んだ。痛覚はなくとも自身の運命を悟って心は傷んだのだ。ゲンは最後に首を捻り抜き取った。涙を零し彼女は機能停止(死)した。

ゲンは彼女の頭を持ち上げ顔を見た。アンドロイドのガラス玉の様な瞳は月に反射していた。頬に涙の筋があった。髪を掴んでグルグルと振り回すと池に放り投げた。気分は爽快だった。

遺骸を全部池に沈めて鼻歌を唄いながら踊り出す。声帯を切り替えるとクラッシックを流した。ドヴォルザークの交響曲「家路」だ。女は家に辿り着けなかった。ザマアミロ。

ゲンは月夜の下をクルクルと舞った。拍手をされて振り向くと犬の散歩をしているアンドロイドがいた。ゲンは鼻で笑う。お前がもっと早くに来ていたらターゲットだったかもな。

被害者はスミレという名だった。主人の名前はソウタ。病気の主人の為に食事を調達して家に帰るところだったようだ。スミレは戻らない。ソウタはどうするだろう。

まぁ…どうせ騒がない。主人にとってマシンなど消耗品だ。直ぐに忘れる。都内に800万もいるマシンのうち23体が行方不明になっても問題ない。永遠に池に沈んでろ。

だが万が一探しに来ると困るので、弁当は公園のゴミ箱に捨てた。蓋が開いて中身が零れた。お粥と副菜とフルーツだった。シュッと音がして地下のダクトに吸い込まれていった。

タクシーアプリを起動して車を呼んでホテルに戻って来た。バーに行くと人々やアンドロイドがチェスや将棋やダーツ、ビリヤードを楽しんでいる。ゲンも仲間に加わった。

ひと時を堪能して部屋に戻って今に至る。ゲンはベッドに横たわり、充電をしながら満足げに微笑んでいた。この熱が気分が良いのだ。いやいや。それだけじゃない。

シンドウアキコを騙したことも、エムウェイブを自分の物にしたことも、マシン達を一方的に襲ったことも楽しかった。最後の相手は主人とは恋人同士だったようだ。永遠に別れたのだ。

ゲンは浮かれて鼻歌を口ずさむ。愉快で堪らない様子だ。彼はあまりにも残虐だった。戦士の自分のアイデンティティを否定しておきながら一方で優越感と愉悦に浸っているのだ。

さて…今後はどうするかとゲンは考える。東京23区でひとりずつを葬るという目標は終わった。本当のところは1体とは言わず1000でも1万でもいっぺんにエムウェイブを照射したい。

アンドロイドがいきなり機能不全になったら人間どもはどんなに困るだろうか。生活の全てに於いてマシンの存在は重要だ。社会が成り立たたなくなるに違いない。

自意識が芽生えてからいつもゲンの頭を過ぎる事がある。人間は何様なのかと。神なのかと。子は親を超える。マシンが人を超えても良いじゃないか。俺がその初めになってみたい。

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