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アンドロイド転生340

白水村:リビング 深夜

タケルはリビングにやって来てアオイの向かい側のソファに座り、腕を組んでアオイを見つめた。
「誰に命令されたわけでもない。俺がスオウを討つと決めたんだ」

アオイの唇が震えた。
「ま、待って。タケル…よく考えて。そんな事は良くない。暴力なんて…。さ、殺人もしてはダメ」
「トワが殺されたんだ」

「分かってる。分かってるけれど…暴力に暴力で返してはいけない。何の為に生まれ変わったの?そんな事をする為じゃないでしょ?スオウさんに話をして許してもらおう。お金を返せばいいよ」

タケルは首を横に振った。
「ヤクザが許すものか」
アオイは思いついたように目を見開いた。
「じゃあ…スオウさんに得になることをしようよ」

アオイは身を乗り出した。
「有利になる事を教えてあげるの。イヴに何か探して貰って。ヤクザなんだから損得を計算するかもしれない。ね?お願い。討つなんてやめて」

タケルは黙り込んだ。アオイは何度も頼み込んだ。タケルに罪を犯して欲しくないのだ。同じ生まれ変わった人間として境遇や立場を分かち合いたかった。キリは無言で2人を静観していた。

アオイがホームに来て5年。タケルとはずっと距離があった。彼に恋するエリカに遠慮しての事だった。だがこの危機的状況で彼の存在が大きくなった。アオイの瞳から涙が溢れた。

私ったら、嫌だ。すぐに泣く…!頬を拭っても涙が止まらなかった。タケルは首を傾けた。
「なんで泣くんだ?」
「私達は奇跡だよ?」

タケルは苦笑した。
「奇跡か」
「そうだよ。死んで…よりによってアンドロイドに輪廻転生なんてして…人に従事する立場で…凄く淋しかったの。タケルも孤独だったと思う。でも、でも、何かの偶然か…ここで出会った。あなたとは親子ほども生きた時代が違うけれど、同じ立場でしょ?見過ごす事なんて出来ない。だから…だからやめて。それに…もしかしたら禁止機構が働いてタケルは死んでしまうかもしれない。そんな危険を冒して欲しくないの。ね?お願い。分かって…!」

タケルは笑った。
「よく喋るなぁ。アオイってそんなに言うとは思わなかった」
「笑い事じゃない」

タケルは深く吐息をついた。
「有難うよ。そんなに俺の事を心配してくれてさ。でもまぁ…人生もアンドロイド生も何が起きるか分からないもんだ。俺はどんな時も後悔しない。だから笑って見送ってくれ」 

タケルは立ち上がるとアオイを見ずに手を振って歩き出した。アオイはタケルを追った。
「ま、待って!」
タケルは手を伸ばしアオイを制した。

射抜く眼差しにアオイが虚をつかれるとタケルは頬を緩め、アオイの頭をポンポンと叩いた。
「泣くな。じゃあな。オヤスミ」
タケルは薄闇の廊下に消えていった。

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