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アンドロイド転生753

2118年5月20日
白水村集落:斎場(中庭)

7歳の少女はチアキを見上げた。
「ミオちゃんは風邪をコジラせたんでしょ?お母さんが言ってた。それで…死んじゃった」
「うん…。そう…。寂しいね」

ミオにウィルスが落とされ警告音の弊害で問題行動を起こした時、ホームの大人は子供達にミオは風邪を引いたと諭した。でも大事には至らない。必ず治ると約束したのだ。

だが死んだ。風邪が酷かった。子供達はそう納得しているようだった。今日はお別れの日。ひとりひとりが祭壇に花を一輪手向けた。少女もミオの元に行くと手を合わせた。

チアキもミオの遺骸の前にやって来た。新しい身体だったのは約2ヶ月。その次はたった8日間。チアキの目前に14歳だった頃のミオの幻影が浮かんだ。その姿が1番想い出深い。

花を手向け、手を合わせる。永遠の別れを実感して寂しくて堪らない。チアキにとってミオは一番の親友であり可愛い妹だった。ミオ…。ミオ…。あなたは今…天国にいるのね。

ルークが祭壇の前にやって来た。その横顔を見ているのが辛かった。ミオを悪意のウィルスから解き放つ為にルークが電源を落としたのだ。恋人としてどんなに辛かろう。

席に戻ると少女はまた囁く。
「エリちゃんも出て行っちゃった。もう帰って来ないんでしょ?タケちゃんを追いかけたんだよね?タウンに行って結婚したんだよね?」

チアキは微笑んだ。子供でもエリカのタケルへの恋心は知っていた。2人が幸せになったと思っているならそれで良い。
「そうだね。きっとね」

エリカも死んだ。だがタケルを追って街に行った事にした。彼女の悪行を伝えたくなかったし、制裁を下したのだとはとても言えなかった。エリカは美しい記憶のまま人々の心の中で生きるのだ。

チアキがミオの死を悼んでいるように、アリスはエリカとの別れに傷付いた。エリカは確かに非道だった。脅迫、密告、誹謗中傷、盗撮。それでもアリスにとっては妹だったのだ。

チアキの隣の女性アンドロイドはサツキだけ。アオイもアリスも東京だ。葬式には来なくて良いと言った。東京で哀悼してくれれば充分だ。チアキも明日新宿に行くつもりだ。

ホームにいるのが辛いのだ。想い出が散りばめられている。多くの仲間が死に去って行った。そんな折れた心に新宿の家族は寄り添ってくれる。快くチアキを迎えてくれるそうだ。

2時間後。ミオとの別れを終えて人間達は献杯していた。チアキは気付く。ルークの姿がないことに。嫌な予感がする。ドローンを飛ばして探した。彼は山道を降っていた。通信した。

「ルーク。どこに行くの?」
『俺の事は忘れてくれ』
「出て行くの?」
『復讐する』

ミオにウィルスを落とした張本人。アンドロイドのゲンを討ちにルークはホームを出た。チアキにその気持ちは理解が出来た。自分だって報復したい気持ちでいっぱいなのだ。

「戻って来るよね?」
『死ぬ覚悟だ』
チアキはそれ以上は何も言えなかった。ドローンの追尾を止めてルークの背中を見送った。

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