見出し画像

アンドロイド転生509

葛飾区:カガミソウタの邸宅

ソウタは溜息をついて頭を左右に振った。彼はゲンのメモリをハッキングして4日間の履歴を知った。
「スゲェなぁ…!イイ気になってるわ!」
「そうですねぇ!」

ゲンは新宿のクラブ夢幻から逃亡した後、銀座の高級ホテルに宿泊していた。ペイは主人のスオウトシキの資産を奪った。驚く程の額が彼のメモリにチャージされていた。

ゲンは優雅に大量にショッピングをした。それだけではない。臆する事なく人々に話しかけスポーツやチェスを楽しみ、如才なく過ごしていた。相手もまさか逃亡したとは思ってもいまい。

昨晩は高級服を身に纏い、これまた高級なバーに入って行くと人間の女性に声を掛けて数時間後には彼女を伴って店を出た。ホテルに連れ込み、一晩を共にして今日はプールだ。

ゲンは逃げ出したアンドロイドでありながらも警告音に苦しめられる事もない。スオウ達が所有権を発動しない限り、このまま自由を謳歌し続けるだろう。何とも幸運である。

ソウタはすっかり面食らってしまった。
「スミレ〜。ゲンは楽しそうだなぁ…。スミレもさぁ。あんな風に自由を楽しみたいか?」
「私はソウタといる方が幸せです」

ソウタは目を細める。眉毛が下がった。
「ホント?ホントかよ〜!嬉し〜よぉ!」
スミレを抱き締めた。頬に何度もキスをする。スミレはいつもの事だと困ったように笑う。

ソウタの腹が盛大に鳴った。空腹だという事に気が付いた。スミレはクスクスと笑う。
「サンドイッチを作ってきます」
「ありがとね〜」

ソウタはリツにコールした。直ぐに相手が出た。
『はい。見つかりましたか?』
「うん。銀座のホテルで人間の女といる」
リツは眉間に皺を寄せた。

ソウタは呆れながら薄く笑った。
「まったくゲンは凄えよ。自由奔放だぜ〜。ファイトクラブでの鬱憤を晴らしてる感じ?」
リツの表情は硬かった。

ソウタは前屈みになった。
「で?リツはどうするの?ホテルに行く?奴を捕まえる?ゲンはそのうち恵比寿に行くよ。女のウチに行くんだってさ」

リツの瞳が決意に燃える。
『ゲンをとっ捕まえてホームに連れて行きます。人間の命令なら聞くと思います』
「そっか。頑張れ」

だがリツは他人だ。アンドロイドが必ずしも人間の命令に従うとは限らない。主従関係があってこそなのだ。しかもゲンは自意識が芽生えた。一筋縄ではいかないのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?