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アンドロイド転生891

2119年10月8日 夜
東京都台東区上野:ミシマユウサク邸 
家族用リビング

先週のこと。園内の全てが竣工し、行政の担当者が設備を全て最終確認した。3日後に認可が降りた。『つばさ幼稚園』は来春、開園が出来るのだ。いよいよ園児募集まで漕ぎ着けた。

夕食を終えて全員が寛いでいた。チアキも同席するのだ。それが本当に嬉しかった。まるで家族のようだ。11歳のサクヤがチアキを見た。
「ね?村は何が楽しかった?」

今までも何度も尋ねられてその都度答えているが、サクヤは山の話が好きなのだ。チアキだって楽しい。ホームについて伝えられるのが嬉しかった。16年も過ごした故郷なのだから。

チアキは想い出深い顔つきになった。
「そうですねぇ。釣りは皆んなが喜びました。獲れた魚はその場で食べる事もありました。塩を塗って棒を刺して焚き火で焼くんです」

サクヤの瞳が輝いた。
「僕も食べたーい!」
「川で皆んなで一緒に食べます。それが一番美味しいって子供達が喜びました」

チアキは宙に目を向けた。
「山には沢山の動物がいましたね。猿、狐、狸、猪、鹿、熊、ハクビシンやテンも。怪我をしたり…親を亡くした子供を保護したりしました」

都会育ちのサクヤにしてみれば何もかもが新鮮に聞こえるのだろう。瞳が輝く。その後もチアキは話を続けた。1年に何度かあるお祭りの話や、天の川の美しさ。雪の結晶の儚さ。

サクヤは父親に顔を向けた。
「僕もホームに行ってみたい!お父さん。いいでしょ?行きたいよぉ!」
ユウサクはニッコリとして頷いた。

チアキが16年過ごした山の暮らし。私の家族は…皆んな元気でいるのだろうか。チアキが村を出てから半年が経っていた。
「私にはミオって言う…妹分がいたんですよ」

チアキは遠い目をして微笑んだ。
「ミオは…14歳モデルだったけど…大人になりたいって憧れて…私と同じ25歳に生まれ変わったんです。とても喜んでいました」

サクヤは驚いた。
「えーっ。マシンも大人になれるの?」
「はい」
「で?ミオは?元気?」

チアキは一瞬躊躇したもののニッコリとした。サクヤに彼女は死んだとは言いたくなかった。
「はい。とっても元気で村にいます」
「会ってみたいなぁ!」

会わせたかった。ミオは仲間の中でも1番親しかったし、過ごした時間も長かった。家事を一緒にする事も多かったし同室だった。スリープモード前のひと時のお喋りが楽しかった。

サクヤはクッションを抱いてポンポンと叩く。
「僕。山で暮らしてみたい!」
チアキは微笑んだ。ホームの子供は都会に憧れたのにサクヤは山に行きたいのだ。

でも…どうだろう…。山での暮らしは四季を見つめて平凡に過ごすだけ。変化のない毎日に飽きがきて、きっとそのうち都会が恋しくなるだろう。人には刺激が必要なのだ。

いや…人間だけではない。自分だって都会の暮らしは楽しかった。保母としてまた働けるのも嬉しかった。自分の未来に生き甲斐を見つけたのだ。こんな運命に感謝していた。

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