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アンドロイド転生761

2118年5月24日
茨城県白水村集落:リョウの部屋

リョウは時間を確認した。午後5時だ。イギリスは午前9時である(サマータイムで時差は8時間)。ハスミエマは朝食を終えて時間に余裕がある筈だ。今が1番タイミングが良いと判断した。

彼はさっきから何度も深呼吸をしていた。シャツの襟を正す。白く清潔でいつものヨレヨレの服とは違う。鏡を見た。これもさっきから何度も確認していたが髪型は綺麗に整っていた。

今からハスミエマに謝罪する。本当はもっと前に決行するつもりだったが、ミオの一件でそれどころではなくなってしまったのだ。結局はミオを救えず悲しい結果になってしまった。

ミオの恋人のルークは村を去った。ミオにウィルスプログラムを仕込んだアンドロイドのゲンに復讐するために旅立ったのだ。イヴを頼らず自身の力でやり遂げるらしい。

そしてミオの姉貴分だった親友のチアキも村から出て行った。想い出深いホームに留まるのが辛かったらしい。新宿にいる平家カフェでアリスと共に暮らす事を決めたのだ。

リョウは深々と溜息をつく。寂しかった。アンドロイドが次々と死に、そして村から去って行った。更に平家存続派の若者と子供達も村を出て街で暮らすのだ。ホームは変わっていく。

リョウは力強く頷いた。
「俺も変わる。卑怯なコンピュータオタクだけど、悪い事は悪いと認めてちゃんと謝るんだ。よ、よし。ハスミエマに電話をするぞ…」

イギリスのハスミ宅へコールした。直ぐに応答して執事アンドロイドの立体画像がリョウの目前の宙空に浮いた。にこやかな笑顔と共に慇懃に頭を下げた。リョウは緊張する。

「あ、あの…。初めまして…。ドウガミリョウと申します。ハスミエマさんと…お、お話をしたいのですが…繋いで頂けますか?」
「どんな御用向きでしょうか?」

どんな御用…何と言えば良いのだ…。リョウは暫く黙り込んでしまった。執事は笑顔を絶やさず辛抱強く待っている。リョウは唇を舐めた。
「え…えと…。に、日本での…騒ぎについて…」

執事は真顔になった。
「それはエマ様の一件ですか?」
リョウは伺うように執事を見つめる。
「は、はい…」

エマの一件。エマのホームページが改竄され、セフレを募ったこと。性に奔放なエマの乱行パーティの動画が流出されたこと。彼女の親友の罪をエマが暴いたこと。

全てエリカの策略で、それにリョウも協力したのだ。エマは世間から好奇の目で見られ糾弾されて心を病み自殺未遂を図った。そして逃げるように両親のいるイギリスに行ってしまった。

執事は難しい顔をした。
「エマ様は療養中です。心を乱すことはご遠慮願います。通話を切らして頂きます」
リョウは慌てた。これでは謝罪が出来ない。

「ぼ、僕は謝りたいことがあります…!」
「謝る…?」
「そ、そうです!だから取り次いで下さい!」
執事は眉根を寄せ黙り込んだ。

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