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アンドロイド転生785

2118年6月12日
茨城県つくば市
アキコのマンション:寝室

アキコはゲンの隣で健やかな寝息を立てていた。取り立てて美人ではないし45歳の中年女には衰えが窺える。それでも事を終えた後の満足げな顔はあどけなく見えた。

先程、快楽の中でアキコはゲンに約束をした。研究した製品のエムウェイブ(アンドロイド制御装置)をこっそりと持ち出すと。ゲンは勝利を確信した。この日を待っていた。

アキコを初めて知ったのはニュースの掲示板で彼女が安易に社外秘を漏らしたからだ。自分にとって有益だと感じた。だからゲンは彼女に近付いた。利用価値があると踏んだのだ。

あの手この手で持ち上げて崇めた。優しく楽しく接した。否定しないこと。共感すること。そして快楽を与えること。アキコはすっかり堕ちた。会社を裏切る約束をする程に。

ゲンはエムウェイブを手に入れたらアキコの家から出るつもりだ。用済みになった人間とさっさと別れたかった。本当は夜の奉仕など懲り懲りだった。こちらには快感などないのだ。

人間の性の欲望の強さにはいつも驚かされた。まぁ…だからこそ、そこを突けば容易いのだが。ゲンはアキコをじっくりと眺めた。元彼はマグロだと言ったらしいがとんでもないぞ。

人は相手次第でどんな風にも変わるという事だな。まぁ…この女も愛や性の悦びを知ってひとつ大人になったじゃないか。俺に感謝して欲しいくらいだ。そして充分に役に立ったぞ。

ゲンにとって人間など利用価値があるかないかで判断するのだ。自意識が芽生えた彼ならではであった。人間に奉仕する為だけの存在のアンドロイドとは一線を画している。

ゲンは鼻歌を唄い出した。声帯を切り替えるとピアノとバイオリンのクラッシックメロディになった。アキコは無意識に微笑んだ。
「良い夢を見て下さい。アキコさん」

それから3日後。仕事を終えたアキコは家に飛び込んで来た。ゲンは驚いた。
「どうしたんですか!」
「ゲ、ゲン…!やったよ!取ってきた!」

アキコは辺りを見回してゲンの腕をぐいぐいと引っ張った。寝室に行くとバッグからケースを取り出し、開いてペンのような物を見せた。
「はい。これ…エムウェイブ…」

ゲンは目を見張った。メタルのような銀の輝き。手のひらに収まるサイズ。側面には赤と青のランプが浮き上がっている。
「赤を押すとアンドロイドは機能不全になるの」

ゲンは頷いた。
「青を押すと再始動するんですね?」
「そう」
「これでマシンを制御出来るのですね…」

アキコはゲンを見上げた。
「明日にはラボに返すからね?」
「はい。分かっています」
返すものか。これは俺の物だ。

その日の夜。いつもにも増してゲンはアキコを攻めた。アキコは快楽に溺れ疲弊してグッスリと眠りについた。ゲンは荷物をまとめてアキコの部屋を出た。もうここには戻らない。

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