アンドロイド転生907
(回想)
2118年10月26日
スオウ組:事務所にて
スオウはソウタとの通信を切るとデスクに指を打ちつけて考え始めた。ソウタはゲンの契約者の権利を譲って欲しいと言う。復讐したいそうだ。だが本当に奴の願いはそれだけなのか?
実際そうなのだがスオウには理解が出来なかったのだ。アンドロイドの恋人が殺されたからと言って復讐するなどとは。彼にとってアンドロイドなど便利なツールに過ぎないのだ。
スオウは熟考する。奴はうちのドラッグの顧客データを握っている。またもや飴と鞭の提案だ。全く面倒な話だがドラッグ取引が警察に捜査されないならばそれは好都合だ。
だがスオウにもプライドがあった。素人に付け入られるとは許せない。簡単に契約者の権利など譲るものか。明日は事務所への来訪を許したが、まずはどんな輩か見てやろう。
その前に…。スオウはトミナガを見た。
「マサヤを呼べ」
トミナガは頷いてマサヤにコールした。実はゲンの契約者は息子のマサヤなのだ。
間もなくマサヤがやって来た。神妙な顔をしている。この長男とは縁を切った。だが小間使いとして利用している。それに今は親子共々保釈中の身の上だ。目の見える範囲に置いておきたい。
スオウはマサヤに対して憤りがあった。今年の春のアンドロイドとの抗争で次男が誘拐された。だがマサヤは弟の危機でも救おうとはしなかった。しかも死ねば良いと言って笑ったのだ。
それだけではなくスオウ組を寄越せとまで言い出した。常日頃から能力が足りないとは思っていたが、ほとほと呆れてしまった。だから縁を切ると宣言し、実行した。
スオウは家庭裁判所に申し出て息子の相続人の排除の手続きを行った。これによりマサヤは財産を得る権利を失った。彼は自分の利益を追求し過ぎて首を絞めたのである。
マサヤは豪邸からアパートに引っ越して細々と暮らしている。だがいずれは逮捕されるだろう。クラブ夢幻の当事者でアンドロイドに戦えと指示をしたのだ。全く愚かだ。
マサヤは棒立ちになりオドオドとしていた。父親に見捨てられて地位を失い、これから裁判が始まるのだ。今までの強気の姿勢とは打って変わってまるで借りて来た猫のようだった。
「…話って何…?」
「アンドロイドのゲンの事だ」
「ゲン…?」
「お前が契約者だろう」
マサヤはボーッと考える。ゲン…?そう言えばそんな名前のマシンがいたなと思う。ファイトクラブの戦士のひとりだ。だが顔などロクに覚えていない。彼にとってはマシンなど消耗品だ。
「そうだけど…機能停止になったよ」
「逃亡したぞ。お前はどこまでも抜けている男だな。マシンの1匹も把握出来ていないのか」
マサヤは黙り込んだ。
「お前の権利を私に譲れ」
「なんで…?」
「なんでもいい」
マサヤはまた黙り込んだ。
マサヤの足りない脳が動き出した。親父は俺に頼んでいるんだ。でも何か見返りがないとつまらない。マサヤは胸を張り始めた。
「それって…取引って事だな」
※マサヤの横暴なシーンです
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