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アンドロイド転生846

2118年7月31日 午前3時
東京都千代田区:帝国ホテル

ソウタは高熱を発し病院に運び込まれた。スミレの死を嘆いて暴れ、安定剤を投与され眠りについた。リツ達はスミレを襲った相手がアンドロイドのゲンだと知って驚愕していた頃。

「お帰りなさいませ」
ボーイアンドロイドは慇懃に頭を下げてすれ違って行く。ゲンはいつもの様に、にこやかに微笑んで自分の部屋に向かっていた。

同じアンドロイドであろうが、ボーイにとってゲンは客だ。正確には客の秘書だが。人間とアンドロイドが共に宿泊する事は当然の風潮なのだ。秘書、マネージャー、ナニーなど。

ゲンはホテルを転々としていたが、その都度お馴染みの嘘で固めた身の上話しを語っていた。主人は作家である。創作活動の為に秘書の自分とホテルに滞在するつもりだった。

だが主人は気まぐれでアイデアが浮かぶとフラッと消えてしまう。そのうちホテルにやって来るが、自分は先に滞在して待機せよと指示されたのだ。と言うストーリーだ。

ホテル側は何の疑いもなくゲンの話を信用して宿泊を許可する。ゲンは10日程滞在して、主人に呼ばれたと言ってホテルを去るのだ。万事問題なく、どのホテルでもスムーズだった。

しかも資金は潤沢。富豪の元主人から奪った金で彼は豪遊していた。主人はある事件の責任者として警察から捜査されており、数ある資金口座のひとつの事など頓着していなかった。

ゲンは部屋に入るとシャワーを浴びた。浴室から出ると鼻歌を唄いながら全裸のままベッドに横たわり充電を開始した。目を瞑り、穏やかな表情である。時々笑みが浮かんだ。

数時間前の情景を思い出す。楽しいひと時だった。東京23区のひとつずつで1人を襲った。23番目のターゲットは若い女性モデルだった。年齢設定は20歳前後か?赤毛で愛らしい顔をしていた。

いつものように公園に誘い出した。子供が泣いていると言えばアンドロイドなら誰でも駆け付ける。彼女は心配そうに辺りを見回していた。ゲンは相手の事が知りたくなった。

倒す前にターゲットの背景を知る方がより楽しい。未来を奪ったとして満足するのだ。
「お名前を伺っても宜しいですか?」
「スミレです」

ゲンはニッコリとする。
「スミレさんはどんな暮らし振りですか?」
「そんな事よりも…泣いている子供はどこにいるのでしょうか。私には声が聞こえません」

ゲンは平然と周囲を見渡した。
「ああ…。きっとナニーが見つけたんですね。もう安心です。少しお話ししませんか?」
「私は急いでいます。主人が病気なんです」

ゲンは舌打ちをした。なんだ。急いでいるのか。もっと色々知りたいのに。仕方がない。事を進めてしまえ。ゲンはスミレにエムウェイブを照射した。スミレは崩れる様に倒れた。

ゲンはスミレの側に行くと、彼女が持っていた弁当を拾い上げた。そうか。病気の主人の食事か。スミレは何とか顔を上げてゲンを見た。顔に驚きと疑問の表情が浮かんでいる。

ゲンはスミレの4肢を折った。彼女は何度も問うた。ゲンは微笑む。
「何故かって?楽しいからですよ」
そして凡ゆる方法でスミレを傷つけた。

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