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アンドロイド転生693

白水村の集落:中庭

新宿でカフェを経営しているキヨシ。縁戚のホームの未来の為に存続派の代表者となり、約1ヶ月間村に滞在し活発に意見を交わしていた。だがたった今、投票の結果敗退したのだ。

キリの夫のタカオも同じ代表者だった。国の一員になりタウンと混じり合い血を繋げるのだ。滅亡させてたまるか。息子のルイの未来を潰してはならない。そう誓っていた。だが負けた。

2人は会議室を出て、中庭で顔を寄せていた。タカオは村に残り、ホームと共に終わっても良い。その覚悟はある。だが子供の未来を奪ってはならない。彼らを国に託すのだ。

「キヨシさん。決めましょう」
「そうだな。そうしよう」
もし存続派が敗退したら、せめて子供達だけでも国民にさせようと決めていた。

存続派の18歳未満は全部で7人。子供達はタウンに行き、可能性を広げるのだ。総務省からは再三国民に所属せよと打診がある。新宿で暮らすキヨシが取り次ぎ役を買って出た。

キヨシは立ち上がった。
「よし。そろそろリツが来る。家に帰る。俺は早速総務省の担当者に連絡を取るぞ」
「宜しく頼みます」

2人は集落の出入り口にやって来た。タカオはキヨシを見送った。キヨシは笑顔で手を上げ、山道を降りて行った。麓まで車で迎えに来た息子と共に新宿に帰るのだ。

タカオは妻がいるリペア室に向かった。扉をスライドするといつもの様にキリとリョウがいた。2人とも神妙な顔をしている。決議の結果を知っているのだろう。リョウは滅亡派のケンジの息子だ。

タカオは2人を見つめた。
「もう聞いているんだな?そうだ。滅亡派が勝利した。キヨシさんは新宿に帰った。直ぐに総務省と連絡を取るそうだ。ルイを国民にする」

リョウは溜息をついた。
「うちの親父はタウンと混じりたくないってさ。頑なだからよぉ。皆んなを説得して回ってよぉ。平家の誇りだ何ちゃらと…」

リョウはいつか自分の子供が欲しかった。本当は片想いのサキと結ばれたいが近親婚の弊害を重々承知していた。となると、タウンに行って相手を見つけなくてはならない。

でもコンピュータオタクで奥手の彼はサキにだって恋心を打ち明けられない。そんな自分がタウンの女性と知り合って付き合って結婚して子供を儲ける。それはあまりにも高い壁だった。

平家の誇りなどないが、かと言って新しい世界に飛び出す勇気もない。存続か滅亡かを決められず中立派に徹していたが心の内は35歳の自分は村で終わろう。そう決めていた。リョウは呟いた。

「ルイがさ…タウンの女の子と恋愛したなんて凄えよ。やっぱり時代なんだな。そうやって変わっていくんだよ。残念ながら終わっちゃったけど、ルイにはまた新しい出会いがあるさ」

タカオとキリはリョウの言葉が嬉しかった。彼は従兄弟だ。弟のように思っていた。
「お前もタウンに行け。まだ若いじゃないか」
「いや。俺はいいよ。ここが故郷だ」

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