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アンドロイド転生779

2118年6月5日 夕方
東京某所

今日もアキコはアンドロイドのゲンとデートを楽しんでいた。だがレンタル終了時間が迫ってきた。しかしアキコは彼と離れたくなかった。
「ゲン。今日はうちに泊まって。ね?」

彼と一緒に夜を過ごしたい。朝を一緒に迎えたい。延長追加で外泊の手続きをしよう。今から申し込んでも承認は得られる筈だ。そう決めてスマートリング(携帯電話)をオンにした。

アンドロイドのマッチングサイトのシステムはこうだ。前もって時間単位でレンタルの申し込みをする。承認許可をされてその時をマシンと過ごし、終了後に毎回ペイを支払うのだ。 

今日は外泊の手続きをしていなかった。延長追加も突発の外泊もペイが割高になるがどうでも良い。しかも家に連れてくれば知り合いに見られるかもしれない。それもどうでも良かった。

ゲンはアキコの手にそっと触れた。
「1週間でも10日でも一緒にいたいです」
長期レンタルとなると支払いが大変だ。だがそれさえも良いかと思う。

ゲンはアキコの両手を包んだ。
「実は…私にはかなりの資産があります。アキコさんにそっくりな元主人はご結婚されて私と別れた後、慰労金を下さったのです」

アキコは驚いた。ゲンは続ける。
「私はラボに戻りマッチング会社に引き取られて現在に至ります。そして今はアキコさんが私のレンタル料を支払っていて下さいます」

ゲンの話は全て出鱈目だ。アキコに似た主人などいないし、資産は元主人のスオウから奪ったものだ。更にマッチング会社のサイトに勝手に自分を潜り込ませた。彼にとっては朝飯前だ。

アキコが支払っているペイも架空のページを作り出し自分が徴収している。何もかもTEラボの研究員というアキコと出会う為に画策したのだ。彼女には利用価値があると踏んでいる。

「アキコさん。私がレンタル料の肩代わりをします。そうすればペイの心配はなくなります。私達はずっと一緒にいられるのです」
「え?か、肩代わり…?」

ゲンは微笑む。優しい眼差し。
「ええ。そうです。一旦アキコさんがお支払い頂きその額を私が振り込みます」
「そ、それは…た、助かるけど…」

ゲンはアキコを促し、彼女の銀行口座のサイトを一緒に見た。今までアキコがマッチングサイトに支払った(と思っている)同等の額が振り込まれてアキコは呆然となった。

ゲンは悲しげな顔をした。
「私はマッチング会社の暗い倉庫に戻りたくない。貴女のそばにいたいのです」
実際は赤坂の高級ホテルに滞在している。

「倉庫…」
アキコは想像してみた。大勢のアンドロイド達と共に真っ暗な中にゲンが押し込められているのかと思うと可哀想で胸が痛くなる。

「分かった…。ゲン、来て。うちに。一緒に暮らそう。ずっとそばにいて。ね?」
「ああ!アキコさん…!愛しています」
ゲンは笑った。アキコは堕ちた。呆気なく。

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