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アンドロイド転生962

2119年3月11日 夜

(ヒマリの視点)

トウマが夜分に会いたいと連絡をして来た。今までそんな事はなかった。不吉な予感がした。案の定、別れの言葉だった。あっさりと受け止めた。見苦しい姿を見せたくなかったのだ。

去って行くトウマを見たくなくて自分から先に家に入った。しかし動けず玄関のドアを背にしてしゃがみ込んだ。口を真一文字にして耐えていたが、やがてポロポロと涙が零れ落ちた。

姉が通りすがる。
「どうしたの?」
やっとの事で囁いた。
「振られた…」

姉はヒマリの近くにやって来た。
「なんで…?」
「私を愛せないって。好きな人がいるんだって。恋なんだって。男なんだって…」

姉はヒマリの隣に座って何度も頷いた。
「あー。それは…無理だ。ヒマリ。アンタは勝てない。きっと彼氏は気付いたんだね。ホントの自分の気持ちに。正直な心に」

「うん…そうみたい」
「分かった。よし。飲もう。そして忘れよう」
「忘れるしかないの?」
「そう。そして新しい恋を見つけよう」

姉はヒマリの肩を抱くと笑った。
「合コンをセッティングしてあげる」
「ヨロシク…」
ヒマリも笑った。人は前進するのだ。

・・・
読者に今後のヒマリを報告しよう。彼女は幾度かの出会いと別れを繰り返して30歳で結婚し娘に恵まれた。絵は描き続け45歳の時に展覧会で優勝した。絵本挿絵作家になり幸せな一生を送ったのだ。
・・・

(シオンの視点)

シオンが帰宅した時のこと。彼はリビングに寄らずそのまま自室に行ったのだが、義姉のマイカが呑気にシオンを追いかけた。トウマとどこに行ってたのか聞き出そうとしたのだ。

だが腕を押さえて顔を歪めるシオンを見て慌て出し直ぐに両親を呼んだ。駆け付けた義父は大丈夫だと言うシオンの服を脱がした。右の肩の全体が赤黒くなっていた。3人は驚いた。

義父は眉間に皺を寄せた。
「一体何があったんだ⁈」
「走っててアンドロイドにぶつかったんだ」
「ぶつかった位でそんなになるか?」

シオンは義父の追求に困ってしまった。ぶつかったのは確かだが激突したのだ。カズキとの一件でシオンは苦悩していた。助けになると言うトウマの言葉で心は千々に乱れて爆走した結果だ。

詳細は話したくない。何とか取り繕う。
「子供が…危なかったから…助けたんだ」
「そうか」
弱者を助けたと知って義父は納得したようだ。

シオンは3人を見回した。
「僕は大丈夫だから…寝れば治るから…」
シオンは家族に心配を掛けたくなかった。だから笑顔を作ろうと努力した。

その様子に義父は決心した。
「いや。ダメだ。病院に行くぞ」
「大丈夫だって…」
押し問答の末シオンは折れた。

10分後。病院に到着すると医師の診断で湿布をして抗炎症剤と鎮痛薬の点滴を始めた。義父は処置室内を歩き回り入院した方が良いと言い出した。彼にとってシオンは大事な息子なのだ。

医師アンドロイドは微笑んだ。
「入院はなさらなくても大丈夫です」
「ホントか?ホントだな?」
「はい。ご自宅の方が安らぐでしょう」

帰宅すると義母は自らホットミルクを作り彼に飲ませた。シラトリ一家は心からシオンを愛しているのだ。シオンは礼を言うとやがて寝息を立てた。3ヶ月振りに安らかな顔を浮かべていた。


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