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アンドロイド転生848

2118年7月31日 午前3時過ぎ
品川区某所

ルークはタクシーに乗り東京駅に向かった。図らずもゲンの居場所を知ったのだ。いや…正確には分からない。だがリツの千代田区という言葉を聞き逃さなかった。まずは丸の内からスタートだ。

ホテルを一軒一軒回った。コンシェルジュと繋がって彼らの見たもの聞いたものを共有する。ゲンを発見する為に。奴は必ずホテルにいると信じていた。根性と執念で探し回った。

21時間後の午前0時過ぎ。ルークは銀座の帝国ホテルにやって来た。歴史あるホテルは現代の姿に変えてドーム型だ。吹き抜け天井の広い館内。いつものようにコンシェルジュと繋ぐ。

彼のメモリにゲンの姿が映った。ロビーを優雅に自信ありげに歩くゲン。ルークは目を見開いた。やっと…!やっと!憎き相手を発見したのだ。探し始めて72日目の事だった。

ルークはコンシェルジュに礼を言ってその場から去るとラウンジのソファに座った。ゲンを待つ。ただ待つ。いくらでも。時間など問題ない。ルークの端正な顔に勝利の笑みが浮かんだ


2119年8月1日 早朝
帝国ホテル:客室フロア

ゲンは客室から出てきた。今日も浮かれていた。いつも楽しくて仕方がないのだ。廊下のニッチにハウスキーパーのアンドロイドが花を生けていた。ゲンに向かって微笑む。

同じマシンでありながら立場の違いを知ってゲンは嬉しくなる。俺は客だ。客なんだぞ。数ヶ月前までは戦士だった。ファイトクラブで望まぬ戦いをしていた。だが今は自由だ。

ゲンはハウスキーパーにエムウェイブを向けた。
「私がこれを照射したらあなたは死にます」
アンドロイドはニッコリとしている。
「そうですか」

「死ぬのは恐ろしいですか?」
「私には死という概念はありませんので、恐怖はありません。ですがいつかは終わります」
「じゃあ。終わりまで精進して下さい」

ゲンはエムウェイブを胸ポケットにしまった。こんな機械の塊を殺しても面白くない。どこかに自我が芽生えたアンドロイドはいないものか。命乞いする様を見てみたい。

ゲンは鼻歌を唄いながら弾むように廊下を歩いて行った。その背中をハウスキーパーは見送った。自我のない彼は何も分からない。自分に与えられた業務を遂行するだけだ。

ゲンはロビーにやって来た。これからホテルの隣にある日比谷公園でトレーニングだ。鍛錬など必要がないアンドロイドでありながら、ゲンは人間のように振る舞うのが好きなのだ。

アンドロイドは誰もが容姿が優れているが、ゲンには自我が芽生えたという自信と憂いがあった。東洋人モデル。切れ長の目。整った鼻梁。均整の取れた身体。そして優雅な仕草。

アンドロイドと恋をする人間達は(ニュージェネレーションやマジョリティ)ゲンが目の前を横切るだけで目を見張った。そして振り向いて見送った。中には追いかけてくる者もいた。

今日も誰かが追っていた。だがその相手は恋が目的ではない。ゲンを倒す。ただその信念の元に付いてきた。ルークだった。ゲンは気付かず鼻歌を唄いながら公園に入って行った。

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