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アンドロイド転生913

2118年10月31日 午後
カガミソウタの邸宅 地下の一室

新たな主人となったソウタに抗えず、ゲンは彼の屋敷にやって来た。地下の一室に案内されて墓場だと告げられて恐怖に慄く。詫びてもソウタは許してくれない。

ソウタの瞳に影が差す。唇が歪んだ。
「俺は悔しい。あの日…俺が…風邪を引いたから…スミレは弁当を買いに行ったんだ。だからお前に狙われた。くそっ!畜生…!」

スミレはソウタの為に平家カフェに行った。その帰りに彼女はゲンと出会ってしまった。病気にならなければ…。お粥を食べたいと言わなければ…。ソウタはいつも自分を責めていた。

リツも怒りを露わにする。
「ミオは俺の妹分だった。警告音で苦しんだ。恋人のルークはそれが辛くてミオを…殺したんだ…。そしてお前はルークも殺った」

ゲンは首を横に振った。
「だって…ミオは私の妹のレイラを機能停止したんです。だから復讐したんです」
「レイラがミオを半殺ししたのを忘れてるな」

新宿のクラブ夢幻で戦士アンドロイドのレイラはミオを叩きのめした。瀕死の状態だったが運がミオに味方した。レイラは5万ボルトの電気を浴びて機能停止(死)となったのだ。

だがこの戦いの全ての始まりはホームがスオウの資産を奪ったことなのだ。スオウはアンドロイドに命じて窃盗犯を追った。そしてトワが犠牲になった。全身が焼かれて死んだのだ。

復讐の連鎖だった。本当はそれは愚かだと誰かがどこかで気付いて終止符を打つべきだったのかもしれない。だが“憎しみ“は動き出したら止まらなくなった。まるでドミノのように。

ソウタはゲンをじっと見た。
「お前を殺っても…スミレもミオもルークも戻らない。だからこんな事は意味はないかもしれない。でもお前は…いちゃいけない」

「旦那様…お願いです。助けて下さい」
「人間はマシンを作った責任があるんだ。暴走したら止めなくちゃなんねぇんだ」
「もうしません。何もしません」

ソウタはポケットからUSBを取り出した。ゲンは即座に理解した。ソウタは自分にウィルスプログラムを仕込もうとしている。人間なら恐怖で顔が真っ青になるところだ。

プログラムが発動されたら警告音の責苦が始まる。自分は正常に機能しなくなる。いつかは破壊されるのだ。ゲンはその恐ろしさを知っていた。なんたって自分が作ったのだ。

「ゲン。首を出せ」
「旦那様!それだけはご勘弁下さい!」
慌てて土下座した。顔が引き攣っていた。容姿の優れている彼の哀れな姿は滑稽だった。

ソウタには並々ならぬ信念があった。何をしても許さない。ゲンはこの世にいてはいけない。自我が芽生え、それを悪用したのだ。彼の存在が罪なのだ。俺が決着をつける…!

ソウタはゲンの頸のソケットにUSB差し込んだ。ゲンのメモリにフォルダが落ちた。だが何も起こらない。削除する事によってコピーが作られ、これによりカウントダウンが始まるのだ。

あとはソウタの心ひとつだ。
「デリートしないで下さい!」
ゲンは悲鳴を上げた。額を床に擦り付けて、嫌だと言って泣き出した。


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