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アンドロイド転生876

2118年9月10日 夜
ロンドン:レストラン

「え!調律に?」
「うん。どうかな?いいかな?」
ミアの顔がみるみるうちに晴れやかになった。
「うん!行く!絶対に行く!」

まだ調律師として新人のミアだが、自分など無理だと遠慮するどころか力量が試せるのだと前向きに考える。それがいかにも半分は異国の血を受け継いでる彼女らしい。何事も挑戦だと思うのだ。

ミアはワインを飲んだ。グラスを置くとリョウを見つめた。今日こそ聞いてみよう。どうして誰かの家に100日間も訪問するのかと。今までは敢えてその件には触れなかった。

「ね?リョウ?なんで通ってるの?その人って…女の人でしょ?リョウの好きな人…?」
「違う」
「何があったのか…教えてくれる?」

ミアはじっとリョウを見つめた。胸がときめく。会えて嬉しい。一緒が幸せ。彼女はすっかり恋に落ちていた。リョウの優しいところ、賢いところに惚れた。何よりも彼は真面目なのだ。

ううん。それだけじゃない。リョウは強い。喧嘩は…全然ダメだけど…そんなのどうでも良い。彼には芯の強さがある。それに私を認めてくれる。子供だってバカにしない。

12歳も離れているけど、ちゃんと大人の女性として接してくれる。偉ぶったりしない。自慢もしない。説教もない。いつも対等なのだ。だから好き。大好き。リョウも同じ気持ちになって欲しい。

黙り込んでいるリョウ。ミアは慌てた。
「あ…良いの。言いたくない事もあるよね」
リョウは一点を見つめていた。
「僕は…最低な事をしたんだ…」

リョウは深く息を吸い込んだ。
「人を傷つけたんだ。酷く…酷く…」
「リョウはそんな事しないよ」
「それは買い被り過ぎだ」

ミアは小首を傾げた。
「カイカブリ…?」
「高く評価するってことさ。ぼ…俺はそんな人間じゃないんだ。人を…殺すところだった」

リョウは語った。片想いの女性を盗撮し、それをネタにアンドロイドに脅されて人を貶めた事を。得意の技術を悪意に使ってしまった。その当人に詫びる為に遥々海を渡って来たのだ。

ミアは呆然となった。そんな酷いことをリョウがしたのか?本当に?でも脅されたから…。
「エリカが悪い。人は自分を守る為には何でもするよ。分かるよ。リョウの気持ち」

リョウは首を横に振った。
「いや…脅迫されたからって人を傷つけちゃいけないんだ。俺はバカだった」
「そんな事ない!」

リョウは驚いた。ミアは息を吸い込む。
「だってね?もしね?子供が誘拐されたら?キョーハクされたら?言うこと聞かないと死んじゃうとしたら?親は子供を守るでしょ」

ミアはひとりで何度も頷いた。
「自分だってそう。自分の身は自分で守るんだよ。仕方がないよ。キョーハクする方に罪があるんだよ。だからエリカはバチが当たったんだ」

そう。エリカの度重なる罪の重さと大きさに、リョウの従姉のキリは制裁を下した。エリカを機能停止(死)にしたのだ。誰でも因果応報なのだ。行いは自分に返ってくるものなのだ。

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