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アンドロイド転生487

白水村:中庭

ミオが自分の運命を嘆いている頃、洗濯物を干しているエリカにキリの息子のルイが声を掛けた。
「干すのが終わったら…イイ?」
「電話?オッケー」

ルイは嬉しそうに頷いた。
「じゃあ…部屋で待ってるな!」
意気揚々と去っていく。これからルイにとって楽しい時間の始まりだ。

恋人のタカミザワモネと立体画像でお互いを投影して会話をする。つまり電話だ。だがルイは携帯電話を持っていない。集落では必要がないからだ。親に願ったが却下されてしまった。

電話をするには他の手段としてアンドロイドが媒介をしなくてはならない。ルイはそれをエリカに頼んでいた。大体週に2回ほど。本当は若い恋人同士は毎日でも話をしたいところだ。

だがエリカは自信ありげに告げたのだ。
「毎日は飽きちゃうよ。時々が良いんだよ」
「そうかなぁ…。そう言うもんかなぁ」
ルイは不服そうだった。

「女の気持ちは私に任せて」 
「そっか…」
エリカは心で舌を出した。毎日なんて面倒臭い。ルイにばかり構っていられないのだ。

エリカと共に家事をしていたアリスはルイを見送って不思議そうな顔をした。
「前は私に頼んでいたのに、なんで今はエリカなのかな?どうしてだろう…?」

エリカは素知らぬ顔をした。
「さぁね?ホラ。思春期ってやつ?男の子の気持ちなんてコロコロ変わるんだよ」
「そっか」

素直なアリスは納得して頷いた。いちいち突っ込んで聞かないところがアリスの良いところだ。ホッとする。実際はルイとエリカには共有している秘密があった。

エリカはモネの住む東京にこっそりとルイを連れて行ってモネに逢わせた。これは誰にも言ってはいけないこと。だからルイは電話の媒介をアリスからエリカに変えたのだ。

ルイの両親は息子とモネが付き合う事を良しとしていない。彼らは60人の少数民族で、茨城県と福島県の県境の集落で細々と暮らしていた。平家の落人の子孫でホームと呼ぶ。

永年続いた独自の文化があってホーム以外の人間達のタウンとは一線を画しており、積年の恨みがあった。69年前に、タウンの右翼派がホームを襲い20名の命が奪われたのだ。

何があってもタウンとは相容れない。その執念で生きて来た。なのにあろう事か、ホームの少年とタウンの少女が出逢い恋をした。これがホーム内に知られれば大きな問題になるだろう。

そんな事情などお構いなしで、エリカはルイとモネの仲を取り持っている。こっそりとこれまで3回東京に連れ出し2人を逢わせていた。何の為に…?それはエリカの策略だった。

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