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アンドロイド転生791

2118年6月17日 午後
東京都港区:サクラコのマンション

タカミザワ家でまた暮らし始めたアオイ。愛しいモネとの日々は幸せだ。主人のサクラコは著名な画家であり、人材を育成する為にレッスンも行う。シュウの曾孫のトウマも生徒の1人だ。

そのトウマがやって来た。彼はアオイの存在に驚いた。ナニーとして派遣期間を終えた彼女が何故いるのだと。もしや裏稼業の泥棒でもする為に来たのかとアオイを咎めた。

アオイは慌てて首を振った。
「とんでもありません…!モネ様の骨折のサポートです。3ヶ月になります」
彼を見つめた。ああ。シュウによく似てる。

アオイはトウマにシュウの容態を尋ねたかった。6ヶ月前に会った時の彼の体調はあまり芳しくなかった。だがアオイを快く思っていない彼にシュウの話題は躊躇われる。

2人の間に会話がなくなってしまった。やがてサクラコが立ち上がると生徒達も続いてアトリエに消えて行く。トウマも歩き出した。その後ろ姿もシュウに似ていて切なくなる。

アトリエの扉が閉まると場が静まった。アオイは深く溜息をついた。緊張していたのだと実感する。その後はザイゼンと共にテーブルを片付けてまた家事に勤しんだ。

30分程経った頃にアトリエからトウマが出て来た。洗面だろうとアオイは気に留めず、銀食器を磨いていた。その目前に彼が佇む。アオイは何事かと驚いて顔を上げた。

トウマは息を吸い込んだ。
「黙っているのも気分が良くないから言っておく。シュウ祖父ちゃんの具合が良くない。最近はずっと寝たきりだ」

アオイはスプーンを落とした。
「え…」
「心臓が弱っているんだ。何回も発作を起こしてる。今度起こしたらヤバいらしい」

アオイの心臓が掴まれたかのようになった。シュウは死ぬ…。確かに彼は老齢だ。130歳が平均寿命の現代でシュウは123歳。充分だと言えよう。だがその日が近いのか…。 

トウマはアオイをじっと見つめた。
「会えねえぞ。忍び込んだって無理だからな」
昨年末にアオイがホームの仲間と共にカノミドウ邸に夜襲した事を言っている。

屋敷にはシュウだけが残っている筈だった。家族は皆旅行をしており、夜襲も再会も都合が良かった。なのにスノーボードで骨折をしたトウマがいた。アオイ達は見つかってしまったのだ。

アオイは強く頷いた。
「はい。分かっています」
そう。分かっている。年末に会ったのが最後の奇跡だ。もう2度と叶わない。

「じゃ、そんだけだから」
トウマはアトリエに向かって足早に去って行く。アオイはその背に礼を述べた。私に対して怒っているのに伝えてくれた。嬉しかった。

約2時間後。レッスンが終了し生徒達とトウマは帰って行った。夕方になり、アオイはモネの学校に行く。いつものルーティンだ。高校の正門で待っているとモネの姿が見えた。

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