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アンドロイド転生362

首都高速道路:池袋線

ルークとミオの車はタケル達と別れ都内のマサヤの自宅を目指していた。だがイヴからマサヤは新宿区歌舞伎町のクラブの夢幻にいると通信を受け、急遽行き先を変更したのだ。

夢幻は2人が12年前に暮らしていた良い思い出がひとつもない場所だ。ルークはファイトクラブ所属の戦闘マシンだった。人間の金と愉悦の為に戦いと言うショーを提供したのだ。

機能停止になるまで相手を潰す。戦う事、倒す事が生業だった。週末になるとリングに上がった。生まれて3ヶ月間、喜びも楽しみもなかった。やらなれけば倒される。それだけだ。

ミオはストリッパー。14歳モデルの幼い身体でも人々は求めた。戦闘が終わった後の興奮した人間達の性欲の相手。妖艶にドレスを脱いで裸体になり、リングで男どもと戯れる。

ミオも生まれて3ヶ月。喜びも楽しみもなかった。やらなければ廃棄される。それだけだ。ある日、ルークに誘われた。逃げようと。驚いた。でも頷いた。彼の手を取った。夢幻にいるのは嫌だった。

逃亡したものの行く当てのない2人を救ってくれたのは同じアンドロイドのチアキとトワだった。茨城県のホームという集落で暮らす事になった。初めて安らぎと幸せを知った。生きる意味も。

ミオはルークを見やった。
「まさか、またあのクラブに戻るなんてね。運命なんて分からないね」
「必ずホームに帰るぞ。俺達の家はあそこだ」

2人は恋人同士だ。自意識の芽生えたアンドロイドに生まれたものは他者を慈しむ気持ちだった。それはただの電気信号なのかもしれないがそれを人もマシンも愛と呼ぶ。


葛飾区:カガミソウタの邸宅

秘密基地と呼ぶソウタの城。宙空にホログラムのイヴが浮かんでいた。イヴは凡ゆる場所に同時多発的に存在するのだ。彼女はソウタを見下ろした。
『アオイ達がホームを出発しました』

ソウタは頷いた。アオイ達はプランBを実行する為、スオウ氏の次男の住まいの東京都港区白金に向かっているのだ。イヴは微笑んだ。
『私達はプランAを速やかに成功させましょう』

ソウタは唇を舐めニヤリとした。
「オッケー」
『新宿の平家カフェに私達が友人になった事を報告しませんか?』
「あ、それはイイな!」


品川区:スオウトシキの邸宅 寝室

スオウトシキと妻のミナコも幸せな眠りについていた。たった今、彼らの知らぬところで事をが動き出した事も知らずに。邸宅の庭では守衛アンドロイド4体が警備していた。月夜が美しかった。

邸内のキッチンではスオウの執事のヒロトが銀食器を磨いていた。執事になって19年。スオウ宅で幸せだった。光り輝く皿に映る顔は美しく、タケルと瓜二つだった。

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