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たまゆら #1_桜

もし私が死んだら、きみが悲しんでしまうのなら、生きるのも悪くないかなと思った。


久しぶりの改札を抜けると、少し湿った土の匂いの風が吹き抜けた。地面を透かしているが辛うじて破れていない花びらを、できるだけ踏まないように階段をのぼる。さらに強く吹き込んだ風に乗った花びらがひらひらと目の前を漂って手のひらに止まった。階段をのぼりきって見えたのは、新品の桜の絨毯。7時10分、早く来た甲斐があった。
制服が濡れないようにスカートを全部前に持ってきて屈み、ファインダーを覗く。感度100、絞り2.2、シャッター速度1/125、優しい晴れの日の桜に、歯切れのよいシャッター音で挨拶をした。

冷たいきみに出会ったのは、そんな優しくてあたたかい春の日だった。久々に袖を通すセーラー服は嬉しい。久々に話す友達は楽しい。みんな同じ気持ちなのか、クラス替えが気になったのか、予鈴の10分前なのに、教室にはみんながいて、控えめなお祭り騒ぎだった。私の隣の空席を除いては。

つづく。

#小説 #1分小説 #写真 #たまゆら

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