-Vol.09-プロ野球選手の成功の基準➂~打撃で貢献・wRAAを指標に成功を考える~<32年分の選手名鑑から平成とプロ野球選手を読み解く>
筆者が一年一年購入してきた『日刊スポーツプロ野球選手写真名鑑』32年分、32冊から、様々なデータを解析、紹介するnoteのVol.09。
今回は、プロ野球選手の成功の基準について、セイバーメトリクス的指標から考えてみたので紹介したい。
と、大それた事のように見えるが、本記事では、野手についてのみ、wRAAを指標とした成功の基準について考察した。
(有料部分はオマケの部分なので、気軽に読み進めていただけると嬉しい)
なお、過去の記事(成功基準①、②)では、年俸や試合に出場することを指標としてプロ野球選手の成功基準を考えた。
以下がリンクとなるので、もしご興味があれば読んでいただけると嬉しい。
以下はこれらのnoteの記事の冒頭と同じで、筆者がプロ野球選手の“成功基準”というものについて考えている事である。
既に成功基準①、②をお読みの方は、内容がほぼ同じとなるので、目次まで読み飛ばしていただければと思う。
プロ野球関係の書籍などを読んでいると、”様々な指標”、”様々な基準”でプロ野球選手を”成功した選手”と"成功していない選手”に区分し、ドラフトの成果や体格による将来性など、様々な因子との関係を考察している記事に出会うことがあるだろう。
この”様々な指標”は、「出場試合数」であったり、「タイトル獲得」「打撃成績・投手成績」「セイバーメトリクス的指標」など、本当に様々なものがある。
また”様々な基準”については、”成功”というものが、個々人の考え方によってさらに千差万別であるので、基準の設定は難解である。
つまり
「一軍の公式戦に出場」=成功
「通算1000試合出場」=成功
このどちらの等式も正なのである。
色々な成功の基準を、指標を変えながら考えてみたいと思う中で、今回はその成功基準の指標のとして、セイバーメトリクスで用いられる「wRAA(打撃得点)」を指標として考えることとした。
本記事では、今後、様々な成功基準と比較するためにも、この成功基準に達する割合(確率)を算出した。
この割合は、その成功基準の難易度のような位置づけとなり、様々な成功基準の比較を可能にするものであると考える。
本記事の解析の対象は、性質上、日本人選手のみを対象としている。
よって解析の対象は、1989年(平成元年)から2020年(令和2年)の『日刊スポーツ選手写真名鑑』に掲載されている日本人選手3500人についてである。
なお断りなく“選手名鑑”と記述しているものは、一般名称としてのプロ野球選手の選手名鑑を指し、“プロ野球選手写真名鑑”と記述しているものは、私の大好きな『日刊スポーツ選手写真名鑑』のことを指すように記述している。そんなに意識せずとも読み進められるとは思うがご承知いただきたい
なぜ筆者がこのようなシリーズでnoteを書いているか、お時間がある方は、詳細は下記の自己紹介の記事を読んでいただけると嬉しい。
○セイバーメトリクス
「セイバーメトリクス」が流行している。
「セイバーメトリクス」とは、
野球についてのみ客観的な知見の探求
と、筆者が参考にした書籍「セイバーメトリクス入門」には、記載されている。
なかなか難しい印象であるが、筆者の解釈としては、「過ぎ去った膨大なデータから、統計学を駆使して客観的に戦術、選手を評価し、未来の戦略に活かそう」、という感じであろうか。
セイバーメトリクスについては、書籍や、Web上の記事等で多く語られているので、是非それらも参考にしてみていただきたい。
今回、セイバーメトリクス的指標の中で、筆者がプロ野球選手の成功の指標とできないかと検討したのは、打撃についての指標である「wRAA」というものだ。
wRAAは日本語では「打撃得点」とも言われる。
○「wRAA(打撃得点)」とは
wRAA(打撃得点)とは、
同じ打席数をリーグの平均的な打者が打つ場合に比べてどれだけチームの得点を増やしたかを表す指標。
である。(「セイバーメトリクス入門」より引用)
「得点を増やす」=「チームの勝利に貢献する」ということであるので、wRAAは、平均的な打者に比べてどの程度打撃で勝利に貢献したか?
がわかる指標となっている。
wRAAの数値はそのまま貢献した得点を表しており、「500打席、wRAA=20」の選手は、シーズン通して平均的な打者が500打席立っていた時よりも、チームに20点多くもたらした、ということになる。
これが「打撃得点」といわれる所以である。
なお、「打撃得点」の計算には2つのアプローチがあり、
各事象の得点価値から直接求める → 「ButtingRuns」
加重出塁率から求める → 「wRAA」
と、名称が使い分けられるのが一般的である。
(“得点価値”、“加重出塁率”もセイバーメトリクス特有の指標である。)
○当記事におけるwRAAについて
本記事では、wRAAの算出のために、プロ野球選手写真名鑑から離れてしまうが、NPBの公式サイトから、個人年度打撃成績を引用して使用した。
wRAAを用いる計算式には
(加重出塁率ーリーグ平均加重出塁)÷ 1.2 × (打数+四球+死球+犠飛)
を使用し、元となる加重出塁率の計算式には
0.7 × (四球+死球) +0.9×単打+1.3×二塁打+1.6×三塁打+2.0×本塁打
/ (打数+四球+死球+犠飛)
を使用した。
加重出塁率の計算に用いる係数は、得点価値による。
得点価値については、厳密にはシーズンやリーグによって使い分ける必要があるが、今回はそこには目を瞑って、同じ計算式を使用している。
○wRAAの数値の基準
先に紹介したwRAAの数値の意義から、その数値が「0」の場合、その打者は平均的な打者というこことになる。
そして、数値はシーズンで貢献した得点(平均的な打者が同じ打席をたった場合に比べて)を表しているため、大きければ大きいほど、打撃(による貢献)が優れることになる。
wRAAの数値の評価には、明確なものは無いが、
10以上 平均以上の活躍をした打者
20以上 チームの主軸を任せられるような打者
40以上 リーグを代表するような打者
と言われるのが一般的である。
ここで2019年(平成31年)の日本人選手のみのランキングを、wRAA>10の選手に限って下記に示す
上記のランキングからも、先にあげた数値評価は納得が行くであろう。
よってwRAAによる選手の成功基準として、10, 20, 40という値が使用できる可能性がある、と考えた。
○wRAAによる「大成功」の基準
ただ10, 20, 40という数値は「成功」というよりは「大成功」した選手が記録するような数値とも思える。
それではここで、wRAA>10を3年間記録した選手を「大成功」として、その割合を見てみる。
下記に、wRAA>10を3年間記録した人数をNPB入り年度別に示し、その割合と合わせて2020年(令和2年)シーズン現在、現役の選手についての基準達成者、未達者の数を示す。
未達成の現役選手がそれなりにいる2006年(平成18年)以降と、平成元年に既に引退している選手が含まれない1988年(昭和63年)以前は割合の計算から除くと下記のようになる。
●基準 wRAA>10を3年以上記録する
対象の野手数 691人 基準達成 56人 割合8.1%
となり、10人に1人以下のかなり厳しい基準であることがわかる。
参考までに、同様に計算したwRAA>20, wRAA>40を3年達成する割合を下記に示す。
●基準 wRAA>20を3年以上記録する
対象の野手数 691人 基準達成 36人 割合5.2%
●基準 wRAA>40を3年以上記録する
対象の野手数 691人 基準達成 10人 割合1.4%
wRAAの数値については、中々なじみがない方が多いと思うが、このように、wRAAの高数値を複数年記録することは、かなり難しいということがわかるだろう。
○wRAAによる「成功」の基準を考える
wRAAは、平均的に打撃で貢献した選手は数値は0になるので、wRAA=0であれば、そのシーズンは、打撃に関して平均的でした、ということになる。
「野手」として平均的に打撃で貢献し続けていればプロ野球選手として成功ではないか。
そういう成功基準もありだろう。
では、「平均的に打撃で貢献」は、wRAA>0で良いであろうか?
下記に、2019年のwRAA=0~2の選手を下記に示す。
上記で述べたがwRAA=0が平均的な打者となるので「平均的に打撃で貢献」の指標は「0」となる。
ただ上記の表でわかるように、0~1の間には、投手や、打席数が少ない選手が入ってくる。
例えばヤクルトの畠山和洋選手。2019年シーズンは、1打席で1単打。
確かに、「平均的な打者は、必ず1打席で1単打で得点に貢献する訳では無い」ので、1打席で1単打でwRAA>0となるのは、理論的にはあっているのだが、成功の基準としては腑に落ちない。
よって、このような例が混入しないように、今回は基準を「0」では無く「1」を採用した。
「1」については、あえて理由をつけるとすれば、
・2019年(平成31年)の全選手のwRAAの数値において、投手が誰1人も「1」を越えていないこと。
・2019年(平成31年)のランキングからわかるように、1を超えている選手はある程度の打席に立っている場合が多く、また本塁打を記録していること。
となるだろう。
よって本記事では
「平均的な打撃での貢献をする」= 「wRAA >1」
とする。
客観的さを追及している、セイバーメトリクス的指標に、主観的に基準を決めるのはいかがなものだろう、というモヤモヤは残るが、ご容赦いただきたい。
○平均的な打撃での貢献を長く続けるのは難しい
それでは、「平均的な打撃での貢献」を何年続ければ成功か?
まずは感覚的な所から、10年と設定し、割合を見てみた。
下記にwRAA>1を10年以上記録した選手数をNPB入り年度毎に示す。
10年以上・・・簡単に考えてしまったが、これが何とも難しい基準であることがわかった。
1989年(平成元年)~2005年(平成17年)にNPB入りした選手を対象に、割合を算出すると
●基準 wRAA>1を10年以上記録する
対象の野手数 691人 基準達成 33人 割合 4.8%
となる。
20人に1人以下の割合という、かなり厳しい基準である。
10年以上一線で活躍している野手については感覚的にはもう少しいそうであるが、wRAAという“客観的”な指標で見ると少ないのだ。
1989年(平成元年)NPB入りして、17年に渡り広島カープで活躍し2000本安打も達成した野村謙二郎選手について、具体的に見てみる。
下記が野村選手のwRAAの年度毎の推移である。
このようなレジェンド選手でも、wRAA>1の記録回数は9回。
あと1年というところであったが、やはり10年以上となると、厳しい基準ということがわかる。
上記から、10年という年数の基準は、プロ野球選手の成功基準としてはハードルは高すぎるだろうと判断した。
○wRAAの数値を用いた成功基準を決定する
それでは、成功の基準には、何年が良いのか、種々、数値と年数を検討した。
その結果、「3年以上、平均的な打撃でチームに貢献をする」ということとした。
1年だけだと成功選手と言えないという声があがりそうだが、3年であれば文句は出ないであろう。
下記に、wRAA>1を3年以上達成した人数をNPB入り年度毎に示す。
このデータから、1989年(平成元年)から2005年(平成17年)を対象に割合を出すと
●基準 wRAA>1を3年以上記録する
対象の野手数 691人 基準達成 126人 割合 18.23%
となる。
よって
「3年以上、平均的な打撃でチームに貢献をする」という成功基準
成功選手割合(野手) 18.2%
となる。
5人に1人以下と厳しくはあるが、難易度としては、過去の別記事で検討した他の成功基準と遜色ない割合とみられる。
ただwRAAは結果として数値が出るため、やっている選手が目指すものでは無い。
チームに貢献する打撃をしていれば結果としてついてくるものである。
なのでこの成功基準では、「目指して成功した」のでは、無く「結果として成功した」という認識が必要であろう。
○野手の役割は打撃だけではない
もう1つ今回注意すべきなのは、wRAAは打撃だけで選手を評価する指標であるということだ。
下記に1989年(平成元年)NPB入りし、大洋/横浜、中日で27年間活躍した谷繁元信捕手のwRAAの推移を示す。
wRAA>1を記録したのは、8回である。
今回決定した「成功選手」には入るが、10回を超えることはできていなく、「平均的な打撃での貢献」という意味では「大成功」はしていないのだ。
しかし谷繁捕手はもちろんレジェンドである。
それは誰もが異論を挟む余地は無いだろう。
それは捕手としての守備面、つまり守りの面での活躍があるからだ。
打撃だけが野手の役割ではない。
守備面が重視されるポジションもあり、また守備での貢献により、評価が高い野手ももちろんいるのだ。
このようなことから、wRAAは、ポジション別で評価される事が多い。
各ポジションで比較して打撃を評価し、「捕手としては高い」などと解析するのだ。
今回の成功基準では、そこを念頭に置く必要がある。
○wRAA>40を5回以上記録しているレジェンド選手
wRAA>40 は一般的に「リーグを代表するような打者」という言われる。
この数値を5回以上記録した選手は、平成以降のプロ野球選手写真名鑑に掲載されている3500人の日本人選手の中で6人しかいない。
そのレジェンド選手を下記に紹介する。
以下、まとめと合わせて、オマケの有料部分となるので、もし良かったら、見ていただけると嬉しい。
●落合博満 実働 20年 wRAA>40 10回
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