見出し画像

【小説】世界は色づく

 オリジナル小説です。宜しければご一読下さい。
 

 夢を見ていた。
 夏目洋は、自分の職場である税理士事務所で、電卓片手にパソコンを睨みつけていた。そこへ、上司から声がかかる。
「夏目くん、書類運びを手伝ってくれ」
 洋は素直に立ち上がった。だがしかし、上司が指し示した書類の山はエベレスト級だった。しかもそれを、何故か屋上に運んで欲しいと言う。ここは一階だ。
 いやです、と言おうとしたが無言の圧力に逆らえず、えっちらおっちら階段を上り、書類を運ぶ。三往復もすると、流石に足腰が痛くなってきた。 夢でも痛みは感じるのかと、ゆるやかに覚醒した頭でぼんやり思い、寝返りをうとうとした。すると腰のあたりに、重みを感じる。
(おれ、本当に書類を運んだりしたっけ?)
 不思議に思いながらゆっくり体を動かせば、温かい重みも一緒についてくる。その重さの正体に気付いた洋が、わざと不機嫌な表情を向ければ、朝日よりも爽やかな笑顔が布団の上にあった。
「ようちゃん、おはよう。朝だよ、もう七時だよ」
 小学四年生の歩にしてみれば、「もう」七時かもしれないが、疲れきった社会人の休日として考えれば「まだ」七時だった。しかも昨晩は残業で、帰宅したのは午後十時を回っていたのだ。
 だが年の離れた可愛い弟には逆らえず、洋は素直に歩に手を引かれ、食卓についた。そこで待っていたのは鮭と納豆、炊き立てのご飯に豆腐のみそ汁。そしてスマホを持つ指の先に、ごてごてとした薔薇の花が咲いている人間が一人。今日は、見事な巻き髪に、花図鑑をそのままプリントアウトしたようなワンピースという出で立ちをしていた。
「今日も、一人展覧会みたいな格好だな」
 みそ汁をすすりながら、もう一人の兄弟である陽に声をかけると、不機嫌そうな声が返ってきた。
「何を言っているのよ。私の今日の格好はねえ、歩に恥をかかせないように、ううん、むしろ自慢してもらえるように考えて選んだフォーマルスタイルの完成系なのよ。毎日毎日金太郎飴みたいに、似たようなスーツで過ごしている洋には理解不能でしょうけれど」
 ふふん、と片二重の目を細めて笑うその顔を見ていると、洋は鏡を見ている錯覚に陥る。勿論洋は、こんな高慢ちきな笑い方はしない。だが、鼻、口、輪郭、そして片二重の目と顔を形作るパーツで言えば、同じものを洋と陽は持っていた。何故なら、性格と服の趣味以外は全く同じものを持って生まれてきた人間同士だからである。
「白詰草と薔薇が一緒に生まれてきた感じねえ」と、母はよく親戚に言われたそうだ。それはそうだと、洋も思う。いくら双子で同じ顔をしていても、髪型や雰囲気、身に付けるもので、いくらでも人間の印象は変わる。
 白詰草の洋は、それはそれで仕様のない事だと考えていたし、薔薇になりたいと思いもしなかった。だけど陽なら、書類を屋上へ運べなどと言われたら、そのままその書類を紙吹雪にして窓から飛ばしてしまうだろう。自分の好きなようにしか生きないその姿勢は、羨ましいものがあった。
 そんな事を考えながら箸を置くと、歩がフォークにさしたりんごを愛らしい笑顔とともに手渡してきた。有難う、と洋は左手でそれを受け取る。
「ねえ、洋。そんなにゆっくり食べていて間に合うの? あんたも行くでしょ、歩の授業参観に」
「何それ。あんたもってことは、陽も行くのか? 母さんは?」
 流しで洗い物をしている母の背中に目を向けると、いつの間にかその頭は美しい形に結われていた。
「母さん、その頭どうしたの?」
 驚いて尋ねると、くるりとこちらを振り返ったその顔には、艶やかに化粧がほどこされている。
「この前も言ったじゃないの。今日は愛美ちゃんの結婚式だって。朝倉さんに頼んで六時からセットしてもらっちゃった。母さん、着付けは自分で出来るからね。まずは髪と顔だけ」
「ああ、そう……」
 朝倉さんとは、この辺の住宅地に住むご婦人方のアイドルと化している朝倉美容院の跡継ぎ息子だ。きっと母は、早く用意をしたかったのではなく、ただイケメン美容師を独り占めしたかったのだろうと洋は結論付け、支度をするために席を立った。廊下に出ると、背後から陽と歩の会話が聞こえてくる。
「はるちゃん、ようちゃんも授業参観に一緒に行ってくれるかなあ」
「大丈夫よ。洋のやつ、立ち上がる時、左頬にえくぼが出来ていたもの。楽しみな事がある時、ああやって地味に笑うのよね。きっと歩の授業参観にうきうきしてきたのよ」
 見た目とのギャップがある独特の低い声で陽がそう言っているのを聞くと、つくづく双子は面倒くさいと思う。知られたくない事を大事に宝石箱にしまったとしても、向こうはそのスペアキーを堂々と持っているのだ。
 全く、面白くない。

 歩の通う小学校は住宅地からゆるやかな坂を上った高台にある。
 仙台市の中心部から少し離れた場所に、わらわらと人が集まって作られたこの町は、時折野生の狸が顔を出すような、のどかな場所だった。だから、だだっ広い道路を独占するように三人で歩いても、誰のじゃまにもならなかった。そんな三人の短い影に、小さな淡雪が色をつけたことに最初に気付いたのは歩だった。
「ようちゃん、はるちゃん、雪が降ってきたよ」
「あら、ほんと」
 陽が空を見上げると、耳についていたピアスがかすかにゆれた。どちらかといえば直線的な陽の輪郭に、赤い石のピアスはよく似合っていた。陽は宝石店に勤めている。きっとそのピアスも自分の店で購入したのだろう。
「今日は外での授業参観なのに、雪なんか降らないでほしいわ。歩、寒いの苦手なのに」
「外? なんで授業参観なのに外なんだ?」
 歩に請われるがままについてきたはいいが、洋はそもそも内容を全く把握していなかった。そんな一家の長男に対し、双子の兄弟は冷たい視線をよこし、可愛い弟は天使のような笑顔を見せた。
「ようちゃん、今日はね、虹色のかまくらを作るんだよ」
「は?」
 日々お堅い税理士事務所で、白い紙に印字された数字ばかり見ている洋にとって、歩の発した言葉は異次元の暗号のように思えた。税引前当期利益と、虹のかまくら。あまりにもかけ離れすぎている。
 そんな洋のために、小学四年生にしては小柄な体で、歩は身振り手振りをつけながら一生懸命説明をしてくれた。おかげで洋はその暗号を解読することが出来た。詳細はこうだ。
 担任の和泉先生が、一枚の写真を生徒達に見せた。 
 それは色のついたレンガで作られた小さな家だった。家と言っても一般住宅を想像してはいけない。歩曰く、「白雪姫に出てくる小人さんの一人暮らしにぴったり」という大きさらしい。そしてその家は太陽の光が透過し、きらきらと光っていた。何故か? その家を形作っているレンガは、色のついた氷で出来ていたからだ。
 和泉先生はその「虹の家」を秋田県の雪祭りで見た。あまりにも綺麗だったので、その写真を自分の生徒達にも見せたところ、一人の男の子がぽつりと口を開いた。
「僕、虹色のかまくら作りたい」と。
 そんな経緯で歩達は使用済みの牛乳パックに思い思いの絵の具を溶かした水を注ぎこみ、虹色かまくらの材料を作ったのだという。そしてそれを、四年生最後の授業参観で、保護者と一緒に組み立てようという話になったそうだ。
 ただ授業を受ける姿を背後からじっと睨みつけられているだけだった自分達の小学生時代を思い返せば、なんともハイカラでアクティブな時代になったものだと洋は一人感心した。それと同時に、かまくら作りをすると知っていた筈の陽は、何故そんなひらひらのワンピースに、踵の高いブーツを履いてきたのかと不思議に思い、尋ねてみた。すると陽は、水を凍りつかせられるほど冷たい視線を寄こしてきた。
「あんただってスーツじゃない。一体どこの誰が、いくらかまくらを作るからといってジャージに長靴で大事な弟の授業参観に行くのよ。それに、私にジャージは似合わない! 見なさいよ、この完璧なフォーマルファッションの完成形を!」
 そう喚いた陽は、くるりとその場で一回りしてみせたが、白いコートの裾からちらりと見えた花図鑑スカートは、やはり図鑑にしか見えなかった。だから洋は、「その白いコートはいいと思う」と一言だけ口にした。 
 言い争いをしたとしても、陽に勝てないのは分かっているし、はらはらと舞う雪の中、民家の軒先に見えた寒椿がとても鮮やかだったからだ。その紅は、陽の白いコートと一緒に、この世界に色をつけてくれていた。
 きゅっと握りしめた洋の左手に、小さな体温が触れた。その温かさの持ち主に目を向けると、きょとんとした表情で、「フォーマルってどういう意味?」と尋ねてきた。
「和泉先生もね、休み時間にお話しをしてたんだよ。今度ゆいのうをするから、ふぉーまるな洋服を準備しないといけない、って。そういえば、ゆいのうって何?」
「あら、先生、ご結婚なさるのね。婚約指輪と結婚指輪、もうご準備したのかしら。うちの店のパンフレット、持ってくれば良かった」
「またそんな、がめつい事を」
「がめつくなきゃ、人生やってらんないわよ。全てにおいて、欲望は大切にしなきゃ。洋ももっと素直に生きなさいよ。人生は一度きりよ。あんたも好きな事、おやりなさいよ」
「余計なお世話」
「ねえ、ふぉーまるとゆいのうって何ー?」
 洋は自分の体にくっつく歩にその意味を説明しながら、淡雪が舞い散る道をのんびりと楽しみながら学校に向かった。十数年前に陽と二人で通った懐かしい道だった。

「本日はお寒い中、授業参加にご出席頂き、有難うございます。今日は先日子供達が作った氷のレンガで、かまくらを作っていきたいと思います。大部分の作業は子供達が担当しますが、参加したいという保護者の方は是非一緒に作業をお願いします。軍手もこちらで用意しております。では、今氷のレンガを運んでくるので、もう暫くお待ち下さい」
 久しぶりの母校は改築され、近代的な建物になっていた。そして担任の和泉先生は、どこぞのテーマパークのお姉さんだと言っても通じるくらい、明るくはきはきとした人だった。少し大きめのダッフルコートに、きりりと結わえた長い髪が似合っている。      
 校庭に集められた保護者達は、その言葉に素直に頷き笑顔になった。その光景はまるで、観覧車の順番を楽しみに待っている子供達のようだ。
 先程の陽の言葉が気になって、思わず和泉先生の左薬指に目をやれば、そこには何の彩りもなかった。
「陽、お前の出番かもな」
 小さくささやけば陽はにやりと笑い、でもすぐに首を振った。
「ううん、もしかしたら今日ははずしているだけかもしれない。だって、かまくらを作るのだから」
「ああ、そうか。傷をつけたら大変だ」
「そりゃそうよ。愛とお金のこもったダイヤだもん。ダイヤを透かせば諭吉が見えるってね」
 そんなのお前だけだろ、と言おうとした洋の言葉は、隣から発せられたしゃがれ声にかき消された。
「あら、今日は洋ちゃんと陽ちゃんが参加なのね。珍しい」
 ぬっと現れた見事なパーマ頭を持つ女性は、近所に住む笠沼さんだった。歩と仲良しの涼介くんの母親であり、朝倉美容院の常連だった。今日も立派なカールがきまっている。
「そうなんですよ、両親が親戚の結婚式に出席するので」
 如才なく美しい笑顔で陽が答える。すると、笠沼さんの目がきらりと光った。
「じゃあ、きっと絹江さんは朝倉さんに髪をセットしてもらうのね?」
 絹江とは、洋達の母親の名前だ。
「ええ、今朝早くお願いして、見事なアップスタイルになっていましたよ」         その陽の言葉に、ライバルに先を越されたアスリートのような目を笠沼さんは見せた。ご婦人方のアイドルも大変だな、と洋は朝倉美容院の息子に同情したが、陽は新しいおもちゃをみつけたように目をきらきらさせている。「朝倉さんの息子さん、腕が良いですものねえ。私も友人達に話すんですよ。うちの近所に素敵で腕のいい美容院があるから、紹介するねって」                     仙台市内の美容院に通っているくせによく言う、と洋は呆れたが、若い女性達に自分の縄張りを荒らされてはたまらないと笠沼さんは思ったのだろう。ものすごい勢いで丸い手を振った。
「仙台の中心部には、若い人向けの美容院が沢山あるのに、何を言っているの。わざわざバスを乗り継いでこっちまで来る必要はないでしょう。ええと、ええとなんだっけ。先生、先生、和泉先生!」
「はい?」
 何を思ったのか笠沼さんは、和泉先生を呼び寄せた。思わず洋は、陽と顔を見合わせる。
「どうかされました?」
「いえね、この前の保護者会の時、先生に教えてもらった仙台の美容院の名前を忘れてしまったの。この人達に教えてあげようと思ってね」      
 髪を揺らしながら近づいてきた先生に、笠沼さんは白い息を吐きながら勢い込んでそう言った。余程陽を朝倉さんに近づかせたくないらしい。その言葉に和泉先生は綺麗な歯並びを見せ、笑顔になった。
「ああ、エデンのことですか? そこは美容院ではなくて、サロンなんですよ。仙台駅のすぐ近くにあります」 
「サロン? サロンも、美容院も一緒でしょう」 
「そうですね、そうかもしれません。でも、エデンはエステ専門のサロンなんですよ。美顔とか、痩身とか」
「ああ、そうだっけ。エステね、エステ。陽ちゃん、そっちに行きなさいよ。陽ちゃんみたいな年代の人にはサロンの方が良いでしょう。先生、この子にそのエデンとかいう場所、きちんと教えてあげてくださいな。あら、岸本さん、久しぶり」
 そう言うと笠沼さんは、顔見知りの人を見付けてそちらに行ってしまった。残された三人は目と目を合わせるしかない。
「ええと……」
 困惑する和泉先生に、陽がにこりと笑う。
「夏目歩の兄弟です。笠沼さんは、私にいい美容院を紹介して下さろうとしていたのです。急にお話をふってしまって、すみません」
「ああ、そうだったのですね。はじめまして。歩くんは、とても良い子ですね」
 話の脈絡はないが、思わず口からついて出たという和泉先生の言葉に、洋は口元がほころんだ。隣を見ると陽も同じ顔で笑っている。自分達の弟が褒められるのは、嬉しいものだ。
「でもエデンは、夏目さんには必要ないですよね。そんなに素敵なスタイルをされていれば」
「あら、先生だって必要ないでしょう。華奢ですもの」
 以前陽に聞かされたことがある。女性同士は、店で頼んだ食べ物をお互い交換して食べさせあうと。
「これ、美味しいね」
「こっちも美味しいよ」
 そう言い合って、互いの選択を褒め称えるのが女性同士の礼儀なのだと。今陽は、厳密にその儀礼を実行している。女性になるのも大変だ、と洋は左手で首に巻いていたマフラーを直した。
「いいえ、私以前は、もっとぽっちゃりだったんですよ。食べる事が大好きなので。ちょっと痩せる必要を感じまして、人様の手を借りさせて頂きました」
「ああ、歩から聞きました。ご結婚なさるそうで。おめでとうございます」
 ちなみに、当店で扱っているエンゲージリングは一流の職人が手がけているのですよ、と続いてもおかしくないくらいになめらかな物言いだった。       だが実際に陽は自分の弟の担任に営業を繰り出すような人間ではなかったし、やろうと思ってもそれは無理だった。何故なら、氷のレンガを運んできた子供達が、泣きそうな顔で保護者達の輪の中に走りこんできたからだ。皆それぞれ、虹色の氷を固めた牛乳パックを手にしている。
 どうしたんだ、と一人の父親が自分の娘に尋ねた。するとその子は、手にした牛乳パックを見せながら、こうつぶやいた。
「色がね、盗まれちゃったの」

 水色、桃色、黄色、緑、青に赤。

 子供達は好きな色を水に溶かし、魔法の薬を作るような心持でその色水を牛乳パックに流し入れた。それを教室のベランダにきれいに並べて固めたらしい。
 東北地方でも、仙台は温暖な地域だ。それでも二月になれば朝晩は氷点下を記録する日も少なくない。水が凍るには充分な寒さだ。
 歩は自分の一番好きな水色の氷を作ったらしい。でも今、三角屋根の上部を切り取った牛乳パックからのぞく氷には、確かに色がついていない。
「とにかく氷を出してみましょう」
 陽のその鶴の一声で、子供達と保護者は一緒になって牛乳パックをはがしにかかった。
「あたし、ピンクで作ったのに」
「おれのも、普通の氷になっている」
 次々と出てきた氷は、確かに無色透明。色のついたものは、一つもなかった。
「ようちゃん、色だけなくなるってそんな事あるの?」
 泣きそうな顔で歩に見上げられるが、洋は答えることが出来なかった。確かに皆、色をつけた氷を作ったという。だけど、目の前にある氷はただの氷だ。どういう事だ?
 真剣な顔で腕組みをする陽に尋ねてみようとしたところへ、少し離れた場所から厳しい声が聞こえてきた。
「先生、これはどういうことですか? うちの子は赤い氷を作ったと言っているのですけれど」
 驚いて回りを見渡してみると、先程の和やかな雰囲気はどこにもなかった。とげとげしたサボテンが、急に皆の心に生えてきたらしい。
 和泉先生に目を向けると、真っ青な顔をしていて、全く状況が飲み込めていないことが見て取れた。それはそうだろう。物体はあって、色だけ盗まれた。そんな話は聞いた事がない。
「おやおや、皆さん怖い顔をしてどうしたのですか?」
 場違いなほど呑気な声が、校庭に響いた。振り返ると小料理屋の店先にある狸の置物にそっくりな一人の白髪の小柄な男性が、にこにこと立っていた。その姿を見て、和泉先生がまるで救世主を呼ぶように声を上げた。
「校長先生」
「どうしました、和泉先生。君達も、一体どうしたんだね」
 ぽっこり出たお腹と、にこにこした顔にはそれだけで安心感がある。子供達は、わっと校長先生に向かって走り始めた。
「校長先生、泥棒が出たんだよ」
「そうなの、あたしの氷の色を盗んじゃったの」
「せっかく虹色のかまくらを作ろうとしていたのに、これじゃあ作れないよ」
 わやわやと子供達に囲まれるその姿は、親鳥に群がる雛のようだった。親鳥は一体どうしたのだ、というようにちらりと眉を上げて和泉先生を呼んだ。短いやりとりの後、状況を把握したのか校長先生は近くにいた生徒の頭をなでながら、保護者達に向かってこう叫んだ。
「皆さん、今回不思議な色泥棒が出たようで、正直私も狐につままれたようです。今回の件に関しましてはきちんと調査致しまして、必ず結果をご報告致します。ただ、今日は折角の授業参観です。子供達は、皆さんと一緒にかまくらを作る事を楽しみにしていました。まずは、透明でもいいではないですか。この氷のレンガを積み重ねて、かまくらを作りましょう」
「いいじゃないですか、そうしましょうよ」
 不満の声が上がるのを遮るように、陽がわざと明るい声を出す。すると、とげとげした雰囲気が少しだけ和らいだ。どこからともなく、「やりましょうか」と声が上がり、固まっていた人の円が動き出した。
 陽のこういうところは、本当にすごいと洋は尊敬する。歩も涼介くんと一緒に透明な氷を見せ合いっこしている。だが、やはり万人を説得するのは難しい。さらさらの髪を伸ばした女の子が、ぽいっと自分の氷を投げ捨てた。「そんなの、いやよ。あたし、虹色のかまくらじゃなきゃ作りたくない」「朱里、またそんなわがままを言って」
 母親らしき女性がたしなめるが、子供にとってみれば虹色のかまくらと、普通のかまくらには天と地ほどの差があるのだろう。朱里ちゃんはまるい頬をこれでもかというくらい膨らませている。その頬を、薔薇のついた指でつついたのは陽だった。
「朱里ちゃんて、呼んでいい? 絶対っていう約束は出来ないけれど、もしかしたらこの氷でも虹色のかまくらが作れるかもしれないよ。ちょっとだけ、朱里ちゃんの氷、貸してね」
 言うが早いか陽は、朱里ちゃんが投げ捨てた氷を自分の鞄の中から出した手鏡の柄で、がつんと叩いた。長方形に固まった氷に少しだけひびが入る。「何をするんですか、うちの子の氷に」
「何って虹の元を作っているんですよ。何か文句でも? そんなのないですよね、はい、虹の見えるかまくらが作れる希望を捨てたくない子は、氷を持ってきて」
「はるちゃん、僕のもー」
 にこにこと歩が手を上げると、次々と子供達が陽の元へ集まっていく。
 その光景は、十数年前、自分達がこの小学校に通っていた頃のものと全く同じで、洋は今自分が本当に社会人なのか、もしかしたら小学生のままではないのかと思わず自分の掌をじっと見つめた。
 その掌は大きく、子供のものではない。親指と中指にたこがある、二十六年生きてきた自分の手だった。
(良かった、おれは大人らしい)
 安心して周囲を見渡すと、子供達のかたまりから少し離れた場所で、ぽつんと一人で立っている男の子を見付けた。どこかで見た事があるなと思い目を凝らせば、なんのことはない歩の仲の良い友人のアキくんだった。色素の薄い茶色い髪が特徴的なので、覚えている。日曜日のお昼に近い時間、ぼさぼさの髪で居間に現れる洋に、「おじゃましています」と丁寧に挨拶してくれる子だ。
 歩と一緒の時はよく笑っている印象だったが、今みんなから離れ、ただ氷を持っているその顔に表情はなく、なんだか精巧なフランス人形のようだった。
(どうしたんだろう?)
 声をかけてみようと一歩踏み出しかけたところで、軽く肩をたたかれた。「相変わらずですね、君のご兄弟は」
 にこにことした声と顔が近づいてくる。洋は思わず左頬にえくぼを作った。
「お久しぶりです、高野先生。校長先生になられたんですね」
 高野校長先生は、ぽんと突き出た自分のお腹をたたいた。
「十数年ぶりですか、すっかり立派になって。私のお腹も成長するわけですね」
 校長先生は、洋と陽が六年生だった時の担任教師だった。校長先生は子供達に囲まれる陽を見ながら、懐かしそうに目を細めた。
「陽くんはいつもああやって友達に囲まれていましたね。その光景を、洋くんはにこにこと見守るように眺めている。一瞬タイムスリップしたかと思いましたよ」
「おれも今、そう思っていました。でも、先生、よくおれ達のこと覚えてらっしゃいますね」
「そりゃあ覚えていますよ、君達双子は面白かったから」
「面白いって……」
「陽くんには脱走癖があったでしょう。でも、すぐに捕まるのです。なぜなら、君に場所を聞けばすぐに分かるから。私は非科学的なものや、不可思議な事は信じない性ですが、双子にはやはりテレパシーのようなものがあるのかと感心したものです」
「ああ、陽のやつ、よく授業を抜け出して裏山で遊んでましたからね」
 飽きっぽい陽は、よく授業を抜け出しては、ふらふらしていた。そうすると、先生達は青くなって洋の元へやってくる。そして、尋ねる。「陽くんは今どこにいるの?」と。
 おれ陽の保護者じゃないんだけどなあと顔をしかめながらも、陽の事を思いながら目を閉じると、なぜかぼんやり浮かんでくるのだ。裏山にある洞窟で石を観察しているな、とか体育館裏で昼寝をしているな、とか。
 そしてそれは百パーセントに近い確立で大当たりし、陽は学校に連れ戻されていた。そんな陽は、真っ白いコートが汚れるのも気にせず、子供達とかまくら作りに勤しんでいる。見れば、笠沼さんもせっかくのパーマが乱れるのも気にせず、一心不乱に氷のレンガを積み上げている。歩も他の子達も、皆笑顔だ。
「朱里くんも笑い顔に戻りましたね。物作りというのは、良いものです」
 校長先生が嬉しそうに笑う。そういえばこの先生は、図画工作を教えるのが得意だったな、と洋は思い出した。子供の日には画用紙で鯉のぼりを作ったし、三月三日には繭玉を使ってお内裏様とお雛様を作ったりしていた。
 自分達が作ったものはどうなったのだろうか。母親が大事に飾っていたのは覚えているけれど。
 小さく首を傾げると、一人まだ青い顔で立っている和泉先生が目に入った。色泥棒に遭ったことが余程ショックだったのだろうか。こそっと校長先生にその事を伝えると、ちらりと和泉先生の方を見やり、お腹をさすった。「確かに色が盗まれるということは不可解ですけどね、君達のテレパシーと違って何らかの理由がある筈です。そして、それは必ず詳らかになります。今は自分のショックより、子供達と保護者の事を考えなければいけない。まだ青いという事ですかね」
 確かにそうかもしれない。虹色の氷は、何らかの理由があって透明な氷になったのだ。そして陽は、その透明な氷の中にも虹が作れるかもしれないと言った。
 当座の雰囲気を良くするためにでまかせでそう言ったのか? 洋にはそうは思えなかった。ピンクのグロスに彩られた不敵な笑顔。何か勝算があるに違いない。
 作業にとりかかって一時間後、氷のレンガで作られたかまくらが完成した。それは子供達が五人一緒に入れるくらい、立派なものだった。
「へえ、すごいな」
「なにを偉そうに。あんたなんか、あの古狸とへらへらお喋りしていただけでしょ」
「古狸とは私の事ですかね、陽くん」
「あら、先生。ますますお腹が立派になって。狸さんの、そのコートとマフラーは、とても素敵ですわ。その審美眼を生かして、どうでしょう、今度奥様にルビーの指輪でもお贈りしては?」 
 あはは、うふふふ、と笑い合う二人から離れ、洋は歩のそばへ近寄った。「歩、良かったな」
「うん、綺麗に出来たよ。はるちゃん、すごく頑張ってたよ」
「あいつ、こういの、好きなんだよ」
「でもかまくら、全然虹色じゃない。歩のお姉さん、うそついたの?」
「はるちゃんは、うそなんかつかないよ」
 むっとした顔で言い返す歩の頭に洋はそっと手をやり、まだ校長先生と言い合いをしている陽に声をかけた。
「陽、虹はいつ見えるんだ?」
「え?」
 思い出したように陽はぽかんと口をあけ、空を見上げた。つられるように洋も顔を上げれば、舞っていた雪はいつのまにかやみ、薄い雲の隙間から白い太陽が顔を出していた。「良かった、もうすぐ見えるかも」
 その陽の言葉が合図になったのかどうか分からないが、眩しい冬の光がかまくらにあたった。すると、透明な氷の中、小さな輝きがかまくらを形作るレンガの中に現れた。
「虹! 虹だよ、これ!」
 嬉しそうに声を上げたのは子供ではなく、眼鏡をかけた中年の男性だった。子供よりはしゃいでいるのは気のせいか? と思いながら洋もかまくらに近づくと、確かにレンガの中に虹色をした光がきらきらと輝いている。「すごい、綺麗!」
「本当に、虹色だあ」
 少し離れてかまくらを見てみれば、その小さな虹は全てのレンガに出来ているわけではない。だけど、数箇所、そういった光が輝いているかまくらは確かに虹色のかまくらだった。
「あの、これはどういう方法で虹を作ったのでしょうか?」
 一番に声を上げた男性が、陽に尋ねた。陽は小さくほほ笑み、再度鞄から手鏡を出す。
「氷のレンガに、これでひびを入れたのです。ひびが入れば太陽の光が氷の中で屈折して虹色の光彩が発生します。虹が見えるようにひびの入れ方を計算する事は難しいので、その入り具合が上手くいくかどうかは運次第でしたが、上手くいったようですね。良かったです」
 短い陽の説明に、わっと大きな拍手が起こった。聞いてみれば簡単な事だが、あの状況でよく思いついたと洋も感心して手をたたいた。すると、じろりと陽に睨まれた。多分、自分だけ楽しやがって、と言いたいのだろう。面倒くさいやつだ。でも、と再度洋は、きらきら輝くかまくらに目をうつす。傷のない氷が虹を作らず、ひびの入ったいびつな氷が光を生み出す。それって中々面白いじゃないか。

「あの、今回は本当にありがとうございました。私一人ではどうすればいいか分かりませんでした。教師として、お恥ずかしい話ですけれど」 
授業参観が終わり、帰宅の途につこうとしたところ、和泉先生に呼び止められた。余程気疲れしたのだろう。きっちり結ばれていたはずの髪が、数本耳元に流れていた。
「いいえ、こちらこそでしゃばった真似をしてしまって。氷の中に虹が作れるかどうかも出たとこ勝負でしたし」
「本当に何と言ったらいいか……。私、なんて事をしてしまったのかと思いまして」
 何もそこまで悲壮な顔をしなくても、と洋は思った。色泥棒が出たのは和泉先生のせいではないのだから。だけど、陽はなぜか胸元でぎゅっと組まれた和泉先生の手をじっと見ていた。
「和泉先生」
「はい?」
「結納は、お済みになられたのですか?」
 洋はぎょっとして陽の横顔を見た。こいつ、本当に指輪を売りつける気か?
 和泉先生も一瞬鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしたが、すぐに口を開いた。
「三月……三月三日ですけど。あの、それが何か?」
「あら、ではもう少しですね。本当におめでとうございます。良かったですね、見つかって」
「ええ、有難うございます」
 礼を言いながらも和泉先生はまだ不思議そうな顔をしていたので、洋は慌てて口を開いた。
「おれ達も早くいい人を見つけないといけないですね。先生を見習って、おれ達も頑張ろうな」
 場をとりなそうという洋の努力を、陽はぽいっと捨て去った。
「一人で勝手に頑張れば?」
 ああ、頑張るよ……。
 洋は大きくため息をついた。

「お前なあ、先生の前でああいう物言いは良くないだろう」
 一足先に校門を出た陽を捕まえてそう抗議すると、ふん、と鼻であしらわれた。
「申しわけないけれど、私は先生だからとか、そういう肩書きで人を尊敬しない。『人としてみて』尊敬出来るなら、いくらでもするけど」
 正論を言われ、洋はぐっと言葉につまった。薔薇は、あくまでも凛としている。そんな洋を少し憐れんだのか、陽は話題を変えるように、「ねえ、ダイヤのついた時計買わない?」と尋ねてきた。どこまでも、商売を忘れない人間だ。
 洋がまた大きくため息をつき、陽の隣に並んだところへ、背後から小さく声をかけられた。
「はい?」
 振り返ると、アキくんが小鹿のような目で大人二人を見上げていた。
「あら、どうしたの? まだ授業があるでしょう」
 そう言いながら陽は、少年の前にしゃがみこんだ。その行動に驚いたのか、アキくんは少しだけ後ずさったが、すぐに思い返したようにまっすぐ陽と視線を合わせた。
「あの……有難うございました」
「え?」
「きれいな虹を見せてくれて、有難うございました」
 色がついた。
 唐突にそんな考えが、頭をよぎった。
 アキくんの真っ白な頬が、赤くなっている。障子越しに、庭の南天の赤がかすかに映し出されるような、そんな内側からにじみでるその色を、とても綺麗だと洋は思った。

 それからの数日間、夏目家の話題は、どうやって氷の色が消えたかという謎で持ちきりだった。
 父親は、何らかの科学的現象が起こって透明になったのだと言う。その科学的根拠はない。母親は、色をつけようと思っていたけれど、みんな忘れて透明なまま凍らせちゃったんじゃない? と言った。そんなにのんびりした人間ばかりが集まっていたら、いじめも争いもなく、世界は平和そのものだろう。
 陽は、何も言わなかった。
 双子の勘で、謎の真相に気付いていると感じるのだが、一度決めたらてこでも動かない陽に、何を聞いても無駄な事も知っていた。わいわいと家族が会話をする中、陽はじっとスマホを見ていた。何を熱心調べているのだと聞けば、「天気予報」という答えが返ってきた。全く意味のない事には、答えてくれるらしい。気象予報士にでも、転職するつもりか。

 授業参観があった翌週の日曜日、大事なものをしまおうと、洋が自室の押入れを片付けていると、ノックもなしに歩が部屋に入ってきた。腰をかがめ、押入れを覗き込んでいる洋に、歩は申しわけなさそうな声を出した。「ごめんね、ようちゃん。大事な絵本の整理中だったんだね」
「おれ、絵本なんて持ってないぞ」
「えー、だって、はるちゃんが言っていたよ。ようちゃんの押入れには、大切な大人の絵本が入っているから、いたずらしちゃだめよって」
「……そんなものは、入っていません」
 歩に大嘘をついた張本人は、今頃軽快に宝石を諭吉に変える魔法の言葉を繰り出しているのだろう。その姿が容易に想像出来て、洋は眉をひそめた。そんな洋をきょとんと見つめる歩の背後に、もう一人小柄な少年が立っていた。アキくんだった。
「アキくん、遊びに来てたんだ。いらっしゃい、こんにちは」
 笑顔を浮かべながら挨拶をすれば、アキくんもはにかみながら頭を下げた。
「歩と、ピアニカの練習をするんです」
 よく見ると、二人とも細長い水色のケースを手にしていた。ケースの形が少しだけ違うのは、アキくんが新しいピアニカで、歩のものは洋か陽のおさがりだからだろう。年季が入っている。歩に左手を差し出すと、素直に手渡してくる。ケースの外側には母親の字で、「なつめよう」と記されていた。どうやら陽ではなく、自分のおさがりだったらしい。
「懐かしいな。練習する曲は、何?」
「うんとね、『宇宙戦艦ヤマト』」
「……ワイルドな選曲だな」
「ワイルドでもなんでもいいんだけどね、明日テストなの。だからようちゃん、練習に付き合って。アキくん、やろう」
 歩の呼びかけにアキくんは小さく頷き、二人並んで、ぷいー、ぷおーとやり始めた。洋の部屋は畳なのでそのまま座るとお尻が冷たいと思い、陽の部屋から盗んできたクッションを敷いてやる。保育園の先生にでも、なった気分だ。
「じゃあようちゃん、僕達が弾くから、聴いていてね」
「はい、どうぞ」
 壁に寄りかかりながら、耳を澄ます。透明な水に少しだけプラスチックを溶かしたような独特の音が部屋に響く。頬を膨らませながら一生懸命小さい手を動かしている二人は、世界一有名な双子の栗鼠のようだった。
 演奏が終わると、洋は大きく拍手をした。
「ようちゃん、どうだった?」
「二人とも、とても上手だったよ」
「間違えているところ、あった?」
「あったけれど、気にならない程度だよ」
「だめだよ、間違えているところが、あっちゃ。ようちゃんまで、はるちゃんみたいな事、言わないで」
 歩の抗議に苦笑しながら、洋は音程が外れていた個所を二人に伝える。するとアキくんが、おずおずと口を開いた。
「あの……」
「うん?」
「どうして教科書を見ていないのに、僕達が間違えていたところが分かるんですか?」
「ああ、おれ、ピアノを習ってたんだ。だから基本の音さえ分かれば、他の音程も聴きとれるんだよ。以前弾いた曲は大抵暗譜しているし、それに合わせて合っているかどうかの判断位は出来るんだ」
「すごいですね」
「いや、全然。結局他に興味が移って、中学でやめちゃったし」
「ようちゃん、すごいよね。だから僕、リコーダーのテストの時も、こうしてようちゃんに練習付き合ってもらったの」
 にこにこと笑う歩に、アキくんも微笑み返した。だけどその笑顔はどこか寂しそうで、洋はわざと明るい声を出した。
「こういう事も出来るよ。歩、ピアニカ貸して」
 洋は歩からピアニカを受け取ると、おもちゃみたいな鍵盤に触れた。

 ドドソソララソファファミミレレド。
 きらきら光るお空の星よ。
 
 少しだけアレンジを加えた、小さな演奏会を始めると、アキくんの頬にほのかな色味が戻った。歩も花のような笑顔になる。きらきら星に、ねこふんじゃった。そして有名なアニメ映画の主題歌を弾けば、二人の顔は益々明るくなった。
「ようちゃん、すごーい! かっこいい!」
 アキくんも、歩のその言葉に頷いてくれている。そんな二人に洋は照れ隠しのように笑ったが、そんな余韻をぶち壊すように、ものすごい勢いでドアが開いた。
「ほんっと、無駄に器用よね、洋は」
 ジュースの載ったお盆片手に偉そうに立っていたのは、陽だった。今帰ってきたばかりなのか、スーツにまとめ髪のままだ。
「おかえり、はるちゃん。ようちゃん、すごかったよ」
「家中に響いていたから、ちゃんと聴いてた。ほんと、毎日パソコンとにらめっこしているより、そっちの方が合ってるんじゃないの? ブレーメンの音楽隊でも作りなさいよ。洋はぼんやりしているから、ロバでしょう。あと、犬と猫と雄鶏か」
「僕、犬!」
 勢いよく手を上げる歩に、洋と陽は笑った。
「確かに、歩は犬ね。アキくんは猫かな。きれいなアーモンド形の目をしているし」
「え……僕も、ですか?」
 驚いたように目を見開くアキくんに、洋は頷いた。
「そう、アキくんも。陽は雄鶏だな。毎日朝からうるさいし」
「こんなに可憐な人間を捕まえて、何を言っているのよ。洋の分のケーキないからね。さあ、頂きましょう」
 陽は優雅な手つきで、テーブルの上にショートケーキとお茶の入ったグラスを並べていく。確かにケーキは三個しかない。なんてやつだ。半分こしようね、と笑みを見せた歩が、洋には本物の天使に見えた。
「そういえばね、さっきの話で思い出したんだけど」
 ぐさり、とフォークに苺をさしながら歩が口を開いた。
「仙台のアーケードの中で、象がギターを弾いているんだって」
「象?」
 アキくんが、首を傾げる。
「うん、象。アキくん、涼介くんに聞かなかった? なんかね、涼介くんのお父さんが見たらしいんだけど、土曜日の夜になると象の被り物をしたひとが、ギターを弾きながら歌っているんだって。ようちゃんとはるちゃん、会ったことある?」
 洋は首を振り、陽は、「そんな奇矯な人間に遭遇したくないわ」と吐き捨てた。アキくんは興味を持ったようで、熱心に歩の話を聞いている。
「他にもその象を見たっていう話は、結構あるみたいだよ。でね、その人達の話に共通しているのは、『なんだか変な感じがした』っていう事なの」「象の被り物をした人間が、ギターを弾いているのだもの。それは、変でしょう」
 陽が、ちゃちゃを入れる。
「そうなんだけどね、でもそういうはっきりと目に見えて分かる事じゃなくて、もやもやした感じで変なんだって。僕も一回会ってみたいなあ」
「夜に外に出るのは、駄目だぞ」
 兄の威厳をもってそう伝えれば、「はあい」と歩は返事をし、赤い苺を口に運んだ。

 そろそろ帰宅するというアキくんをお見送りしようと一階に降りると、母が笠沼さんとお茶を飲んでいた。いつの間にかやってきたらしい笠沼さんのパーマは、今日もボス猿並みの存在感を放っていた。
「松下さんとこの息子さんじゃないの」
 そのしゃがれ声にアキくんは小さくお辞儀をし、玄関に向かった。ドアを開け、三人並んでアキくんに手を振る。
「明日の音楽のテスト、頑張ろうね!」
「うん。あの……」
「どうしたのー?」
 首を傾げる夏目家三兄弟に、アキくんは、小さく微笑んだ。
「この前は虹を見せてもらったけれど、今日はブレーメンの音楽隊の仲間に入れてくれて、有難うございました」
「あの子、なんて可愛いのかしら。ときめくわ」
 アキくんが帰って扉を閉めた後、陽が乙女の眼差しになって胸の前で手を合わせた。
「本当にいい子だよなあ」
「ちょっと洋。そこで止めておきなさいよ。犯罪者の兄弟を持つなんて、私いやよ」
「陽に言われたくないよ」
「僕もアキくん、すきー」
 ぎゃあぎゃあ言いながら居間に入ると、笠沼さんが大きな声で母に話をしていた。
「そう、それでね、今の松下さんとこなんだけどね、離婚調停で泥沼も泥沼らしいのよ」
 歩にそんな話を聞かせたくなかったので、洋は歩の耳をふさいだまま、急いで廊下に出る。陽も他人には分からない程度に眉をひそめ、二人の後に続いた。それでも、笠沼さんのしゃがれ声は響き渡る。
「だってお金のあるお医者さんの家のダブル不倫でしょう。ドラマよりすごいわよね。さっきの子の親権をどちらに押し付けるかで、大もめみたい。こうなると一番可哀そうなのは、子供よねえ」
「一番可哀そうなのは、そういう事を訳知り顔で鸚鵡みたいにべらべら喋る事に羞恥を覚えないあんただよ」
 低い声で陽はつぶやき、打って変わった口調で高らかに叫んだ。
「あ、そうだ、笠沼さーん。私さっき朝倉美容室の前を通ったんですけどね、すっごい綺麗なお客様がいらっしゃってましたよ。息子さんの恋人ですかねえ? 笠沼さん、ご存じじゃありません?」
 居間から、鶏が締め上げられるような声が聞こえてきた。洋はもういいだろうと、歩の耳にあてていた手を離す。何故か歩は黙り込んでいたが、まっすぐに顔を上げ、洋と陽に視線を合わせた。
「僕、アキくんのお父さんとお母さんが別れようとしている事知っているよ。アキくんが教えてくれたから。だから、もしその事でアキくんに何か言う人がいたらね、僕がアキくんを守ろうって決めているの」
 普段の末っ子甘えっ子の歩からは想像もつかない強い言葉に、洋は驚いた。いつの間に、こんなに成長していたのだろう。
「守るものがあると、自分も強くなれるから、いいものよ。頑張りなさい。くだらないことを言う人間がいたら、私が教えた飛び蹴りをくらわしてやるといいわ」
 陽の物騒な言葉とともに頭を撫でられた歩は、子犬のように笑った。


 星空が綺麗見える金曜日の夜零時、洋は陽に連れ出され夜道を歩いていた。この一週間、なんの理由も聞かされず、ただ暖かい格好をしろとだけ言われ、毎晩暖かい家からひっぱってこられていた。訳が分からない。だけど、一つだけ分かっている事がある。陽は、真夜中の小学校の見張りに目覚めたらしい。
 夜の小学校の門は当然のように閉められている。ジーンズにピンクのダウンコート姿の陽は、軽やかにその門を飛び越えた。
「ほら、洋も早く。懐中電灯、貸して。私が持つから。もう一週間も通ってるんだから、そろそろ慣れてよ」
「陽は、身軽だよなあ……」
 陽のように軽快にとはいかなかったけれど、なんとか洋も学校の中に入れた。それだけで充分な運動をしたような気がする。明りのない真っ暗な学校は不気味だった。一体なんのために、こんな時間にここに来たのか? 校舎の窓に目をやれば、当然のように真っ暗で、昼間の生徒とは違う他の生徒が授業をしているようで、洋は体を震わせた。懐中電灯だけの明かりでは、とても心もとない。
「何を怖がっているのよ。この世で一番怖いのは人間よ、人間」
「そうは言っても……。なあ、もうそろそろ、何のためにこんな事をやっているのか教えてくれても良くはないか?」
「知りたいの?」
「当たり前だろう!」
 怒鳴った口元から、白い息がもれる。その息を追うように、裏山ある方角を見ると、視界が小さな光を捉えた。思わず小さな悲鳴を上げる。
「え、何?」
「火……火の玉……」
「え、見えた?」
「見えた……」
「やった! 運がいいわ! さ、行くわよ、洋!」
 いやだ、と言えたらどんなにいいだろう。夢の中でもそう思った。でも言えなかった。夢の中でも言えないのに、現実で言えるはずがないではないか。しかも、おれは陽より五分早く生まれたお兄ちゃんなのだ。
 半分泣きたい気持ちで颯爽と学校から裏山に続く坂道を走る陽の後を追いかける。走る事なんて久しぶりだ。ぜいぜい息をしながら、陽のピンク色のダウンジャケットを目印に無心で走る。まるで、子供の頃に戻ったかのようだった。
 山が開けて平地になる場所に近づくと、火の玉と思えた光が大きく見える。洋はまた悲鳴を上げるところだったが、すんでのところで我慢した。兄としてのプライドもあったし、その光の正体がかすかに分かりかけてきたからだ。
 あれは、懐中電灯の光だ。
 正体が分かれば恐怖は半減する。だけど、なぜこんな時間に、懐中電灯を手にした人間がいるのだ? 坂を上りきり立ち止まった陽に声をかけようとしたが、薔薇のついた指先が唇を押さえた。ふたりで静かにゆらゆら揺れる懐中電灯に近づいてゆく。その光源は、山の中に続く洞窟の入口にあった。目をこらすと人影が見える。
 その人影は何をしているのか、まるで踊りを踊っているかのようにくるくると洞窟内を動き回っていた。その人影の正体が分かった時、洋は思わず陽の手を握った。いきなりの事に陽は驚いたのか、ちらりと洋の顔を見たが、小さく頷くと、その人影に向かって一歩踏み出した。そうして、声をかける。
「何をしているのですか、校長先生」

「おや、まあ」
丸い顔に丸いお腹。ぽんぽこ狸さんが人を化かす算段でもしていたわけではないだろうが、陽の持つ懐中電灯に照らされたその顔は、いたずらが見つかった歩の顔にそっくりだった。
「やはり君達は全てお見通しでしたか。相変わらず面白い子達ですね」
 悪びれた様子もなく、校長先生はにこにこと笑っている。その足元には丸いバケツが数個と、紙袋が並んで見えた。それを見た陽は残念そうに眉をひそめた。
「ああ、やはり溶けてしまったのですね。水曜日の最低気温が二度でしたから」
「そうなのですよ。この洞窟の中なら外界よりも温度が低いので大丈夫かと思ったのですが、これが中々。子供達に申しわけない事をしてしまいました」
「でもそのつぐないの品を、今作ってらっしゃるのでしょう。手伝います」「おやおや、その代わりルビーの指輪を買えと仰いますか?」
「言いませんよ、純然たるボランティア精神です」
「ちょっと待って下さい。おれには何がなんだか」
 陽の手を離して待ったをかけると、背後から小さな足音がして、洋は飛び上がった。
「何、今度は何!?」
「もう、肝っ玉の小さい人間ねえ」
「これはまた、役者が勢ぞろいしたようで」
 校長先生の視線を追いかけるように振り返ると、そこには深夜なのにきりりと髪を結った和泉先生が立っていた。懐中電灯を向けられたその顔は、まぶしげにゆがんでいた。だけどそれは、ただまぶしいからではないと気付く。泣いているのだ。
「陽、一体何がどうして……」
「ほんっとにぶいわねえ。歩達の作った氷から色を盗んだのは、この古狸よ。ううん、正確に言えば盗まざるを得なかったのかもしれない。そして、その最初の原因となったのは、和泉先生、あなたですよね」
 夜に似合う低い声の問いかけに、和泉先生は小さく頷いた。
「私、色を盗んだつもりはなかったんです。もとの色に直して戻しておけばいいかなって、そんな簡単な気持ちで」
「実際、そうされたのでしょう?」
「ええ。だから、授業参観の時に子供達から氷が透明になっていると聞いた時は、本当に何がなんだか分かりませんでした。私が取った氷は一つだけでしたし、それもきちんと絵の具で色付けして戻しておきましたし」
「ちょっと待って下さい。それは和泉先生が氷のレンガをひとつ取って、その分をまた同じ色に凍らせたという事ですよね。どうしてそんな事を?」     洋が尋ねると、和泉先生は恥ずかしそうにうつむいた。
「指輪です」
「指輪?」
「ええ、婚約指輪をレンガとして凍らせてしまったんです。だから、その指輪を取り出すために申しわけなかったのですが、生徒が作った氷を一つ溶かしました」
「指輪? 指輪をされていたんですか?」
「はい。ただでさえサイズが合わなくてゆるくなっていたんです。氷を作るときにはずしておけばよかったんですが……。私のミスです」
「痩せると、指のむくみもとれますものね。指輪は、先生がエデンに通い始める前に贈られたものなのでしょう」
「その通りです。結婚が決まったので、痩せる決心が固まったようなもので……」
 ようやく洋にも状況が呑み込めてきた。
 大事な指輪がないと気付いた時はひどく焦っただろう。いつ、どこで? 祈るような気持ちで、あちこち探しているうちに浮かんだ心当たりは一つ。子供達と作った氷の中。決して大きくはない牛乳パックに固められた氷の一つ一つを覗きこめば、その中に目当てのものを見つけるのは容易であっただろう。それを溶かして、自分の将来の幸せを約束する小さな光を取り出す。そこまでは、分かった。だが、しかし。
「だからと言って、何故全ての氷を透明にする必要があったのですか?」「違うでしょ、和泉先生は一つだけ溶かしたと仰っているのよ。それに、本当はやってはいけないことだけれど、溶かした氷と同じ色をつけて元に戻しておけばそれで事足りたわけだわ。多分、誰も気付かない。色泥棒が出たといって、事態がややこしくなったのは、そこにいる古狸が全ての子供達の氷をこの洞窟に集めて、もう一度牛乳パックに透明な水を入れて固めさせたからよ。そうでしょう、校長先生」
 校長先生はにこにこ笑っているだけで、口を開かない。痺れを切らしたように一歩近づいたのは、和泉先生の方だった。
「校長先生、私にも押しえて下さい。校長先生は、授業参観で私が事態を報告した時に、『全部分かっているから大丈夫。今は授業に集中しなさい』と仰いました。一体どうして、こういう事態になったのでしょうか?」
「泉先生、一つお伺いします」
「はい」
「あなたは、誰の氷を溶かしましたか? 牛乳パックの外側に、一人一人の名前が書いてありましたから、覚えているでしょう」
 直球の質問に、和泉先生はうつむいた。
 小さく、答える。
「松下くんのものです」
「アキくんの?」
 思わず声が出てしまった洋に頓着もせず、校長先生は質問を続ける。
「ではその氷の色は、何色でしたか?」
「色……? 緑……いいえ、水色だったでしょうか。私は水色に着色して戻しました。ええ、水色です」
「違います」
 にっこりと、校長先生は笑った。
「透明だったのです」

 校長先生は、学校が好きだ。だから、よくうろうろしている。だけど午後の六時にもなれば殆どの生徒は帰宅し、校舎は静寂に包まれる。
 だけどその日校長先生は、図書館のすみっこに隠れるように座る、一人の生徒を見つけた。アキくんだった。
 泉先生からの報告で、アキくんの家庭が不協和音を奏でている事は知っていた。でもそんな事実を知らなくても、アキくんに何か不安なことがあるという事は容易に知れただろう。何故なら、白い小さな顔が全てを物語っていたから。
 校長先生はアキくんと手をつないで、一緒に校門まで帰ろうと誘った。ふたりで人気のない校舎を、ゆっくりと歩いた。廊下の曲がり角に差し掛かった時、水の流れる音がした。そっとふたりで様子を伺う。見れば、廊下に併設された手洗い場に、和泉先生が立っていた。手には、「松下アキ」とマジックで名前の書かれた牛乳パック。和泉先生は中に入っていた氷を取り出し、蛇口をひねった。 

 そこまで校長先生が話し終えると、和泉先生は口に手をあてた。
「アキくんは、一言も口をききませんでした。でも、二人で校舎から校門までの道を歩いていると、小さな声でこう言ったのです。『僕、ただの水を固めたんです。色をつけていないのは、僕だけでした。だから先生は怒ってあんなことをしたんですね』と。その後我慢できなかったのか、声も出さずに泣きました。そうですね、確かに氷は溶けますが、またすぐに作れるものです。アキくんがその場にいたのも、嘘に近いような偶然です。でも他の子供達が家族に見せようと、楽しく氷の色を考えている教室の中、恐らく授業参観の事も忘れているであろう両親の事を思いながら、ただ無色の氷を作ると決めた。そんな子が自分の担任に氷を溶かされているのを見た後に、楽しそうな友達とその家族に囲まれて虹色のかまくらを作る。自分は、一人なのに。それはアキくんにとって、拷問のようだと私は思いました。だから私は、他の子供達には大変申し訳ないが、全ての氷を隠しました。断っておきますが、私は全員平等主義を唱えているわけではありません。ただ幸いにして、アキくん以外の生徒の家庭に、何らかの問題が生じているという報告は受けていませんでした。故にその時優先すべきは、悲しい時にさえ自分を押し殺す事を覚えてしまった子供の心の重石を、少しだけ軽くする事だと判断しました。自分だけではなく、他の友達の氷も透明になっている。そうすれば、少しは疎外感を感じなくて済むかもしれないと思ったのです。あくまでも、私の勝手な主観によるものですけどね」
「古狸のくせに、色々考えているのですね」
 偉そうに陽が言う。校長先生は、突き出たお腹をたたきながら笑った。「そうです。考えているのですよ、これでも。だけど、氷にひびを入れて作る虹のかまくらまでは考え付きませんでした。あそこに君がいてくれて、本当に良かった。あれ以来、アキくんも少しずつ笑ってくれるようになりました。世界には、綺麗なものがあると思い出してくれたのでしょうか」
 そう尋ねた校長先生に、陽は肩をすくめ、ただほほ笑んだ。
「それにしても、なぜ私がここにいると分かったのですか? 私は君達と三つ子ではないので、テレパシーは使えないはずですが」
「火の玉ですよ」
「火の玉?」
「ええ。先々週の金曜日に、小学校の裏山で火の玉を見たという噂話を、職場で聞いたんです。それは丁度、授業参観日の前日ですよね。私、色のついた氷を全て透明なものにすり替えたのは、校長先生だと分かっていたんです。でも、二つ分からないことがあった。一つめ、氷をどこに隠したか。二つめ、なぜそんな面倒な事をしたか。二つめの疑問は今、先生のお話を伺って解決しました。そして、一つめの疑問については、火の玉の話が答えを教えてくれました。火の玉なんて、あるわけがない。それなら、火の玉と見間違える何らかの光源を持った人物が、裏山を徘徊していたのではないかと思ったのです。徘徊していたのは、校長先生ですよね」
 陽の失礼な物言いにも、校長先生はにこにこと笑っている。その笑顔に、凍てつくような寒さが、少しだけ溶けるような気がした。
「古狸が裏山に行くという事は、狸の大集会かと一瞬思いましたが、すぐに考えを改めました。多分、色つきの氷と、透明な氷の交換を行っていたのだろうと。だって裏山には、物を隠すにはうってつけの洞窟がありますから。だからこの一週間、洋と二人で裏山を見張っていたんですよ。いつ隠しているはずの色つきの氷を取りに戻るのかと思って。とても寒かったんですよ、どうしてくれるんですか」
「何故私が犯人だと分かったのですか?」
 それは洋も聞きたかった疑問だった。陽は、地球は回っている、と世界の真理を語るようなきっぱりとした口調で、「コートです」と答えた。
「コート?」
「だって先生、授業参観の時にしっかりとコートを着て、ご丁寧にマフラーと手袋までして現れましたよね。いつものように徘徊して、ちょっと授業をのぞいてみようかな、という程度ならそこまで重装備しないと思ったのです。あれは、何らかの問題が発生して、自分が授業中ずっと屋外にいる事を想定した格好だと思ったのです。超能力者でもあるまいし、未来が予測出来る人間がどこにいます? 犯人しかありえないでしょう」
「ああ、そこは盲点でした。やっぱり君達は面白いですねえ」
「面白くないですよ。もう、寒くて風邪をひきそうです」
「私も大変だったんですよ。いくら小さい氷だといっても、それを持って何往復もするのは、結構きついものです。おかげでいい運動になりましたけどね。牛乳パックを用意する為に、牛乳を沢山飲んだので、カルシウムも採れましたし、健康には良かったのでしょうか。おや、和泉先生、どうしましたか?」
 その声につられるように和泉先生を見ると、かすかな月明かりの光でも分かるくらい、ぼろぼろと涙をこぼしていた。洋はぼんやりと、アキくんもこうして泣いていたのだろうかと思った。
「私、自分の事しか考えていませんでした」
 月の光に反射して、涙がきらきらと光る。
「早く結婚しなきゃいけないってずっと思っていて、だからようやく貰えた婚約指輪をなくしたと気付いた時は、ものすごく焦りました。彼に愛想をつかされるのではないかと。だから、氷の中に指輪の影を見付けた時は本当に安心しました。その気持ちのまま、何も考えず、罪悪感も感じずに、簡単に氷を溶かしました。指輪と、結婚する未来を取り戻す事しか考えていなかったから。私、松下くんの気持ちなんて、少しも考えていませんでした。最低です」
「そうですね、あなたは生徒を信用しなかった。きっとアキくんなら、きちんと理由を話せばすすんで氷を溶かしてくれたでしょう。あの子は、そういう子です。でも和泉先生は、その手間を省いた。これは、反省すべきことでしょう。まあ、勝手に氷を隠した私も、偉そうには言えませんけどね」
 穏やかに笑いながら和泉先生にハンカチを差し出す校長先生に、陽が追い討ちをかける。
「しかも、溶かしちゃってますしね」
「そうなのです。氷は、色水になってしまいました」
「だけど、いい考えがその丸いお腹に浮かんでいるのでしょう?」
「頭に浮かんでいるのです。一人で頑張ろうと思っていましたが、こんなに援軍が来てくれるなんて心強い限りです。そういえば和泉先生はなぜここが分かったのですか?」
 和泉先生は、鼻をすすりながら口を開いた。
「私も校長先生を観察していたんです。授業参観の時の言葉が、ずっと気になっていて」
「こんな美人ふたりに行動を観察されていたなんて、私も捨てたものじゃありませんね。ねえ、洋くん」
 校長先生は洋が疲れたように笑うより早く、そう言って、ぽんとお腹をたたいた。夜の工作の始まりだった。

 赤く染まった繭玉を、一番高い枝の先に飾り付ける。
知らず知らずのうちに押し殺していた息を吐き、洋は額の汗をぬぐった。
 久しぶりに木登りをしたせいか、寒さのせいか、掌がじんじんとしびれていた。だけど桜の木の上で見る夜明けの空は、心のどこかを振動させる美しさだった。青紫色の空に、薄い雲がかかっている。夜と朝の、境目のようだった。
「ようー」
 木の下から、陽が叫ぶ。
「綺麗に飾りがついているよ。もう下りてきても、大丈夫だよ」
 校長先生発案の夜の工作とは、繭玉に色をつけ、それをまだ春の息吹が遠い桜の木に飾り付けるというものだった。勿論、その染色に使うのは、虹色の氷が溶けた後の色水だ。
 洞窟で色づけしたあとの繭玉を持って、懐中電灯と月明かりを頼りに小学校に戻る。校長先生はすでに飾りをつける木に当たりをつけていたようで、なんの迷いもなく、校庭脇の一本の桜の木に近づいた。
「この木にね、少し早い花を咲かせますよ」
 陽の呼びかけに、洋は手を上げる事で応え、地上へと下りてゆく。徹夜のうえ、久々に運動させられた体は悲鳴を上げていたが、何故か頭はすっきりしていた。それは他の三人も同じようで、繭が飾られた木を観るその顔は、子供達に負けないくらいきらきらしていた。
 冬特有の、差し込むような光の下で見る桜の木には、様々な繭の花が咲いていた。可愛らしい丸い繭が、朝の光を受けてそれぞれに輝いている。赤、青、緑、黄色、そして勿論色づけしていない真っ白なままの繭もある。
「子供達、喜びますねえ」
 すっかり化粧も落ち、声もがらがらになってしまった和泉先生がぽつりと言った。そして、何かを決意したように、校長先生に顔を向けた。
「校長先生、私、自分のやった事を、全部生徒達に話して謝ります。保護者の方にも説明させて下さい」
「いえ、その説明は私からしますよ。色泥棒の張本人は、私ですからね。責任はきちんと取ります」
「もし早期退職なんて事になったら、退職金で奥様にルビーの指輪でもいかがです?」
 けろりとのたまう陽の顔を、校長先生はにこにこと見ていたが、すぐに感心したように頷いた。
「そうやって二人で並んでいると、本当にそっくりですねえ。小学生の頃にタイムスリップしたみたいです」
校長先生のその言葉に、陽は少しだけ面白くなさそうに頬をふくらませた。「全く同じ遺伝情報を持って、生まれてきていますからね。こんなへたれの片割れなんて、心外ですけれど、こればっかりは神様が決めた事なんで、しょうがないです」
「でも、男女の一卵性双生児というのは、珍しいですよね」
 和泉先生が、洋と陽の顔を見比べる。陽の化粧がとれた今、おそらく髪型以外に違いはない。何故なら。
「珍しくないですよ」
 にこりと陽がほほ笑む。
「だって私、男ですから。なんの変哲もない一卵性双生児です。それに、異性の一卵性双生児というのは、存在しません」
「え……ええー!」
 そう。白詰草と薔薇は、全く同じものを持って生まれてきた。 
 ただ薔薇は、普通の薔薇ではなく、美しい薔薇になることを願い、それを実現しているのだ。
 眩しいな、と洋は空を仰ぐ。
 そして目線を戻せばそこには色とりどりの繭の花が咲いていて、きっとこれを目にした歩とアキくんもとても喜ぶだろうと、洋は左頬に小さなえくぼを作った。隣を見ると、和泉先生に質問攻めにされている陽の顔にも、同じくぼみがあった。
 校長先生に目をうつすと、校長先生もぼんやりと繭の花を見ていたが、洋の視線に気付くと照れたように笑った。
「我ながらいい出来だと思いましてね」
「はい、とても綺麗です」
「陽くんのアイデアの虹のかまくらも、美しかった。考え次第で、色々なものを生み出せるのだと私も勉強になりました」
「あいつ、悪知恵はよく働くんです。ご存知でしょう」
 校長先生はそれには答えず、ただ面白そうに肩をゆすった。そして柔らかな目をしたまま、もう一度繭の花を見上げた。
「いつか」
「はい」
「いつか、アキくんの心の中に出来たひびが虹をうつして、こうして花になるといいですね」

「あー、眠い! もうお肌、ぼろぼろじゃないの」
 校長先生と和泉先生に挨拶をし、家路につく頃には太陽は柔らかな陽射しを降り注ぎ始めていた。
「洋はいいわねえ、今日休みじゃないの」
「お前だって、久々の土曜休みだろう?」
「私はねえ、あんたと違って忙しいのよ。朝倉美容室の息子さんを、誘いに行かなきゃ」
「なんで?」
 途中、自動販売機で買ったホットコーヒーを口にしながらそう尋ねると、いつものように冷たい目で睨まれた。
「さっきの古狸の話、聞いていたでしょう。ばか正直に色泥棒のこと、自首するって。そうなると、騒ぐのは笠沼さんを中心としたグループよ。だったら笠沼さんを黙らせれば、そう事態は大きくならないわ。笠沼さんを黙らせるように、上手く誘導出来る人物がいるでしょう」
「ああ、それが朝倉美容室の息子さんか」
「そう。前々から食事に誘われていたの。いい機会だから、上手く言いくるめてお願いしてくるわ。ついでに、ダイヤで装飾された鋏、買わないかしら」
「なんというか……陽はすごいよなあ」
「何よ、急に」
 紅茶のペットボトルを手にした陽は、不気味そうに眉をひそめた。洋は足元にあった小石を、こつんと蹴る。
「今日、すごく久しぶりに木登りをして思い出したんだけど、陽はさ、おれが登っている最中にあの枝に手をかけて、あそこで一息入れてってシュミレーションしている間に、何も考えずにどんどん上に進んで行くだろう。ただてっぺん目指して。そんな陽の背中に憧れていた事、ふと思い出した」
「ほんと、気持ち悪いんだけど」
「小さい頃からずっとそうだっただろう。中学も、高校も、大学も、陽の周りにはいつも人が集まっていた。おれはその様子を見ていて、単純にすごいなって思っていたし、羨ましくもあったよ。おれは、地味だからな」
 自分の言葉に少しだけ泣きたくなりながら、洋は小さく笑った。笑いたくないのに、笑顔が出る。その顔を、陽が気に入っていない事を、洋は充分承知していた。
 予想通り、陽は怒った顔になり、おもむろに結んでいた髪をほどいた。朝陽の中、綺麗なカールが踊る。
「それは、あんたがそう望んできたからでしょ。この私と同じ顔を、しているのよ。その気になれば、色んな人間が洋に近づいてくるわ。まあ、あんたがそんな事望んでいるとは、思わないけれど」
「別に望まなくはないよ。ちょっと、人見知りのおれには大変そうだけど。だけど、おれがやりたい事は、そういう事じゃなくて」
「じゃあ、やればいいじゃない。そのやりたい事。平和大国日本に生まれたんだから、大抵の事は出来るわ」
「やってみたけど、だめだった。きっと陽だったら上手くやれて、今頃それで食べていけてたんだろうけどな」
 平和大国日本でも、才能がなければ、好きな事で生きてはいけない。
 ついさっきまで、あんなに綺麗なものを作っていた自分なのに、その魔法がとければただのサラリーマンでしかない自分に、洋は自己嫌悪を感じた。いつもは、上手くしまいこんでいる感情なのに、小さなほころびから真っ黒な闇がちらりと顔を覗かせた。その闇を振り切るように、洋は空を見上げた。
 陽は好き勝手に自分の道を歩いている。校長先生も、和泉先生も、教師というやりがいのある仕事に就いている。そして、今日飾りつけた繭の花を見て笑顔を浮かべるであろう子供達には、無限の未来が待っている。だけど、自分は。そんなことを考えてしまうのは、木登りをし、空に近づいたからかもしれない。小学生の頃、空を見上げながら思い描いていた夢を、思い出してしまったからかもしれない。
「凡人は、幼い頃の夢など忘れてしまった方が心穏やかに過ごすことが出来る」
「誰の言葉か知らないけど、これだけは断言出来るわ。穏やかさと、空虚さは違うのよ」
 耳の痛い言葉をさらりと言ってのける陽の目は、まっすぐだ。その眩しさに、洋は笑いかけた。
「そのグレープフルーツのしぼりかすみたいな笑顔、やめてくれる? ぶんなぐりたくなるわ」
「別にいいよ。逃げるから」
「そうね、あんたって逃げ足だけはやたら速いものね。どうせなら前に進んだほうが余程建設的なのに」
 その言葉に洋は笑い、絵の具で染まった左手を太陽に広げてみせた。ごつごつと骨っぽい、へんな箇所にたこのある手。
 この手でパソコンを操作し、電卓を打ち、自分でも向いていないと自覚している仕事で飯を食っている。
 小さい頃は、陽の背中を追いかけていれば良かった。それだけで安心出来た。だけど大人になり、自分一人の足で立ってみれば、そこにはお情けのように薔薇の花びら一枚手にしたつまらない男がいるだけだった。

 
 一つの受精卵が分裂を重ね、ひとりの人間が生まれる。その人間が持つ細胞は、六十兆個。
 その細胞全てに同じDNA配列が記されていると思うと、気が遠くなる。そして合わせて百二十兆個の細胞は、なぜ薔薇と白詰草に分かれたのか。そうだ、薔薇と白詰草の違いを君は知っているだろうか。イギリス原産と、日本原産。そんな答えなら、僕はいらない。

 そう静かに柔らかな声音で最後のメロディーを歌い上げたのは、象だった。
「象さん、哲学的―」
 最前列で見ていた会社員らしき女性達が、笑いながら声を上げた。
 象のかぶりもので頭部を隠し、ギター片手に歌を歌っていた人間は、その言葉に答えるように少しだけ首を傾げた。
 首から下は、地味な紺のコートにジーンズといういたって普通のいで立ちなのに、頭には象のかぶりもの。
 この不思議なストリートミュージシャンは、土曜日の夜八時にアーケード商店街の中に出没しては、ちょっと変わった歌を披露していた。ギター一本で奏でられるその音楽は、どこかつかみどころがなく空に浮かぶ雲のようで、土曜日を楽しみにしている観客も少なくなかった。
 今日も、三月も終わりとはいえまだまだ寒い空気の中、象は歌い、観客はその歌声を楽しんでいた。ラストの曲、『笹かまぼこと海』を歌い終えた象は、深々とお辞儀をした。そして取れそうになったお面を慌てて手で持ちながら顔を上げると、「何かお望みの曲はありますか?」と、観客に声をかけた。その問いかけに答えるように、「きらきら星!」と声が上がった。
 象は、ちょっとびっくりした。
 今まで、洋楽や演歌をリクエストされた事はあっても、童謡は初めてだったからだ。そして更に、象のみならず、観客までもを驚かせたのは、声を上げた主が、犬のお面をかぶった子供だったことだ。しかもその子供は、猫とうさぎのお面をぶったお供を引き連れている。
 勿論猫もうさぎもお面をかぶっているだけで、体は人間だ。猫は犬と同じ華奢な子供、うさぎは白のコートに身を包んだ背の高い大人だと分かる。象は驚いて、ギター片手に逃げようとしたが、身のこなしの素早いうさぎがそれを許さない。低い声で、脅すようにつぶやく。
「聞こえてんだろ、きらきら星だよ、きらきら星。さっさと弾け。そのギターは、お飾りか」

 怖い。

 恐怖が、羞恥に勝った。
 象は右手で弦を持ち、左手を勢いよく振り落とした。
「ああ、左利きか」
 前で見ていた若い男性が、手品のトリックを見つけたようにつぶやいた。だが、そのつぶやきは、象の歌声にかき消された。象は歌った。遠い空に、届くように。

 きらきら光る お空の星よ
 まばたきしては みんな見てる
 きらきら光る お空の星よ
 きらきら光る お空の星よ
 みんなの歌が 届くといいな
 きらきら光る お空の星よ

「まあまあ良かったんじゃない? 歩とアキくんも喜んでいたし」
 犬が歩、猫がアキくん、そしてうさぎが陽。
 きらきら星を歌い終えて、逃げるように走り去ろうとした洋に追いつき捕まえた陽は、獲物を捕まえたライオンのような目をしていた。怖い、いやだ、と泣き出しそうなのを必死でこらえたのは、陽と一緒に走ってきた歩とアキくんが、笑顔で褒めてくれたからだ。
 その二人と手をつないで家に帰り(アキくんは、お泊りの許可を貰っていたそうだ)、一緒にお風呂に入り、寝かしつけ、自分の部屋に戻れば、我が物顔で陽がビールを飲んでいた。化粧を落とした顔は、風呂上がりの自分と全く同じものだった。
 洋はミネラルウオーターのキャップを開けながら、ベッドに腰掛ける双子の弟の向かいに腰を下ろした。
「陽、怖い」
「それは、洋がぐだぐだしているからでしょう。音楽やりたいなら、やればいいのに。今は誰だって、動画配信出来るじゃない。私、洋の声、好きよ」「……分からない」
「何が」
「おれには、何もないから」
「私と同じDNAを持っているじゃない」
「陽には、分からないんだ」
 思わず出た一言に、洋自身が驚いた。そうか、おれはそんな事を思っていたのか。何でも分かる双子の筈なのに、分からない。
 陽の言葉は、真実だ。
 陽は、人にも自分にも嘘をつかない。
 男性に生まれ、でも女性として生きたいという望みを、堂々と表明し、その存在を全身で主張している。
 好きだと思う歌さえも、象の被り物がなければ披露出来ない自分とは大違いだ。
 今だって、素顔で、シンプルなピンクのセーターにジーンズという格好なのに、薔薇の威厳は損なわれていない。
 薔薇になりたいわけではない。ただ、白詰草は白詰草なりに胸を張って生きたいだけなのに、どうしてぐるぐるしてしまうのだろう。
「私が、初めてお化粧をしていた時の事、覚えている?」
「うん?」
 確か、高校一年生の時だった。英語の辞書を借りたくて、陽の部屋に入ると、泣きそうな顔で薄いピンクの口紅を塗った自分の顔を、鏡で見ている陽がいた。
「その時、あんた、私に何て言った?」
「……ピンク、似合うな? だっけ?」
 その答えに、陽はえくぼを作った。
「そう。私、一字一句覚えてる。『へえ、ピンク可愛いな。おれも化粧したら、そういう顔になれるのかな』って。私、あの時、すごく悩んでいたの。可愛いお洋服が着たいとか、スカートが穿きたいとか、お化粧をしたいって思う自分がおかしいんじゃないかって。洋や、他の友達と同じように、どうして男でいる事に納得出来ないんだって。それこそ、世界は真っ暗だった。自分は欠陥品だと思っていたから。でも、洋がそう言ってくれた後に、もう一度鏡を見たの。ピンクが可愛いと、思えたわ。いやでいやでたまらなかった自分を、綺麗だと思えたの。このままでいいのかもしれないと、思えたの。その時の私の嬉しさが、分かる? 洋の一言で、私の世界に色がついた」
 初めて聞く、話だった。
 洋は、手にしていたミネラルウオーターに目を落とす。無色透明。自分みたいだ。だけど、そんな自分でも、陽の世界に色をつける事が出来ていたのか。目元が熱くなる。泣くな、と洋は思った。ここで泣いたら、兄の威厳が台無しだ。
 そんな洋の事を、全て分かっているとでも言いたげに、陽は優しい笑みを浮かべる。
「古狸達と作った、繭玉の花、綺麗だったわよね。色んな色があって。私、それでいいと思うの。誰かのささいな言葉で、人はいつだってこの世界の鮮やかさに気付けると思うから」
「……そうだな。あー、もう無理。泣く」
「どうぞー。お兄ちゃんは、泣き虫ねえ。ねえ、洋。何かをしても、もしかしたら望む結果はすぐには得られないかもしれない。でも、『何かをした事実』は、私達をほんの少し色づけてくれると思うの。その色が重なり続けて生みだされるものも、この世界にはきっとあるのよ。私は、そう信じてる」
 からかうような言葉に、優しさが響く。
 洋は熱い雫とともに、弱い自分を捨て去ろうと決めた。
 来週は、素顔で路上ライブをやる。
「洋」
 陽の呼びかけに、顔を上げると、ビール缶を手にした弟が、目の前にいた。洋は小さく笑い、ミネラルウオーターを掲げた。
 ビールとミネラルウオーターを、小さく合わせる。

 薔薇と白詰草の頬には、そっくりなえくぼが浮かんでいた。



【あとがき】
 ここまで読んで下さいまして、有難うございました。双子と推理小説が好きなので、それを合わせたものを書きたいなあと思ったところ、このようなお話になりました。今は桜の季節で、世界が鮮やかですね。新緑の季節も楽しみです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?