見出し画像

有栖川有栖「モロッコ水晶の謎」

 短編集。個人的に、アリスは人当たりは良いが内面はもしかしたら火村先生よりも人に対して厳しいかもしれない、だがそこが良いと思っているのですが、そんなアリスを堪能出来る作品のように感じました。凄く面白かった。
 有栖川作品は、本当にさらりと違和感なく伏線を織り込んでくれるので、なんというか、ミステリを読んでいる時にたまに感じるストレスがないんですよね。加納朋子先生の「魔法飛行」の解説が有栖川先生なのですが、その解説自体も一篇の作品のように素晴らしくて。解説の中ではあるシーンに着目して賞賛をおくっているのですが、同様の事は有栖川先生の作品にもいえるなあと。素晴らしい作品を読み、素晴らしい解説を読めるのも読書の醍醐味ですね。
 表題作「モロッコ水晶の謎」は、こういうトリックもあるのか、と意表をつく思考がとても興味深かったです。「そんな事、あるわけないやろ」という御意見も出そうですが、人間の思考なんて100万人いれば100万通りあるわけで。だから犯人が「そう考えた」から実行した、というのはあり得ると思うし、自分とは違う思考の道筋をたどるのも、ミステリを読む楽しみの一つでもありえると思うのです。
 あとは、私かなり前にこの作品を初読していたようで。アリスが火村先生のフィールドワークに同行する理由を自分で語っていたんだ、という事に今回気付き、これまた面白いなあと思いました。古今東西様々な探偵と助手の形がありますが、火村先生とアリスの良いところは、お互いが常に対等である、というところだと私は感じます。互いを尊重している事が分かるし、親友というのは良いものだなあと思うわけです。私にも親友と呼べる友人が二人おりますが、思考、様々な好み、人との接し方、価値観などの全てが自分と近しい人は、そんなに出会えないような気がします(あくまで私の経験です)。そういう人と出会えるのは神様からのプレゼントだと思いますので、大切にしたいなあと思う次第でございます。無神論者の火村先生なら、「確率の問題だ」と一刀両断するのかもしれませんが、それならばその少ない確率を潜り抜け親友となった二人の本を楽しめる事に、感謝の念を捧げたいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?