ラストスマイル

  ってずっと思っていました。同じ勘違いしてた人いるんじゃない。阿部サダヲが言うまで気づきませんでした。

  正しい題名は『ラストマイル』。最後の距離。タイトルを軸に振り返ると、まあ色んなことを思う訳で。作中では、発送センターから顧客までの距離を指す言葉だった。自動化が著しい物流倉庫とは違い、最後の最後の配送はマンパワーで行っている。
 機械と人間の違いは沢山あるかもしれないが、その1つはドラマ性の有無があると思う。
 この映画なら、70過ぎた父親から配送の仕事を教えてもらう40代の中年の新人ドライバー。前職は家電メーカーで働いていた。丈夫な作りになるように部品にこだわっている、"The 老舗"のような会社だった。しかし、安価な家電を作る時代の流れに押し潰されるように倒産した。そして本人は”安さ””お得”の流れに組み込まれた。それでも最後の最後に母娘を救ったのは主人公たちではなく、”古きよき時代”と”最先端の働き方”の狭間にいた、最後の距離を任された、脂肪が浮いた中年のピカピカ新人ドライバーだった。
「いい商品使ってますね」「部品はもうないので修理もできません」 
 この映画で一番の決め台詞に違いない。
 一方、物流の源では、人間ではなく、機械を使用する。納品作業ではブルーカードを所有する人が登場するが、番号で振り分けられノルマを設定され、稼働率と数値化されていた。彼らは、機械の部品とまで言わないが、システムの一部には違いない。そこにドラマが産まれるだろうか。
 人間がいるラストマイルに焦点を当てられるのは必然だ。

 まだ、”距離”に関する要素はある。
 最初のシークエンスで登場した『27m/s-70kg→0』。観終わったあと、これが物語の核だとぼんやりと思った。秒速27mのベルトコンベアーに70kgの衝撃を与えるとスピードは0になる。言い換えると、コンベアーの上に成人男性が落下すれば、物流は止まる。
 この命題は偽である。ヤマサキが証明した。これが重要なのだ。
 前任者たちは「残す」ように引き継ぐ。なぜなら、前任者たちはこれの意味を知っているからだ。ベルトコンベアーに飛び降りても何も変わらない。会社も社会も現実も。
 これは人生を賭けた証明だったのだ。『27m/s-70kg→0』を実践しても意味がない。それを知っているから、前任者は需要過多のロッカーを処分しない。一見落書きに見えるが、消さない。むしろ残すように引き継ぐ。後任者が限界に達したときに逃げ出せるように。
 実際、劇中で気付いた満島ひかりは限界だった。だから文字式が何を表すかすぐに理解したのだろう。
 映画のラストシーン。既に、式が何を表すか分かっている岡田将生はロッカーを見つめて何に気付いたのだろうか。
 仕事を止めたことのある人、部署を異動したことのある人ならわかるかもしれないが、最後の仕事は後任者への引継ぎだ。最後に行くところとして、『27m/s-70kg→0』の在処。

 ラストマイル。ラスト、参る。最後に参る。
 これはただの言葉遊び。

補足
 ミステリー(?)サスペンス(?)パートに関しては、初めの爆発を見ている観客にはわかるでしょ、登場人物より後に気付くってどんな気持ちですかー、っていう内容でした。

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