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毎日読書#188 『父の詫び状』(向田邦子)

この『父の詫び状』を読むまで、向田邦子を知らずに生きてきた。読まずに生きてきた。ずいぶんと惜しいことをしていた。

出版されたのが1978年なので、随分と昔の本になるのだけど、まったく色褪せない面白さ。半世紀を乗り越えるエッセー。驚異的である。

向田さんは、テレビの世界で、ドラマ等の脚本を書いていた方ということで、テンポよく話が進む。テンポよくというか、あっちこっちと話が進む。次々と話が飛び、あれよあれよと引き込まれ、しんみりした読後感が残される。きっと、ドラマもこんな感じだったのかな。

昭和の生活史としても興味深い。サザエさんや、さくらももこの昭和すら、ずいぶんと昔の日本という感じがするけど、それよも更に昔の昭和。

戦中・戦後の昭和を舞台に、恐らくこういう人達が日本の高度成長を支えたのだろうなという「父」と、それにふりまわされる「私」(と家族)との逸話を、自分の人生を振り返るような形で描いていく。

こんな説明だと、なんだか暗く侘しいイメージだが、向田邦子さん、とにかく変な事件に遭遇する、そのうえ、それをしっかり拾うので、掲載されたエッセイはどれも抱腹絶倒の面白さ。戦争の影響もあり大変だったと思うのだが、そんな事を感じさせない。そっけなく父を扱うが、その実、じわじわとしみてくる親子愛。読んでいて素敵な気分になる。

この頃にくらべたら「父」の役割というのは全く変わってしまった。社会や家庭での役割は、今と昔では全く違っていると改めて思う。いま、こんな「父」が居たら「ママ」に3秒で殺されている。無理無理。やばいやばい。

本書は、1955年に創刊された無料の情報誌「銀座百点」に連載されたものをまとめたもの。

「銀座百点」は今でも残っていて、銀座の古い店でランチを食べていると、その店の入り口あたりにそっとおいてあったりする。

新橋寄りの銀座にある天國にも置いてあって、天丼を食べて朦朧としているときに読んでいると、なんだか昭和にトリップしたような気分になれるよ。

ということで、久しぶりに銀座百点をもらいに天國に行ったら、なんと店が閉まっていた。閉店ではなくて移転ということで安心したが、あの角に別のビルが立つと、新橋から歩いてきたときの雰囲気が随分と変わるのだろうな。

それはさておき、本書はオススメです。奇想天外な向田ワールドを楽しんでみてください。

「人間はその個性に合った事件に出会うものだ」(小林秀雄)
「事件の方が人間を選ぶのである」(向田邦子)

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