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SF好きでなくても楽しめる超良質なエンタメ小説『オービタルクラウド(藤井大洋)』【読書ログ#43】

話は2020年の東京から始まる。東京オリンピックが開催されない世界の東京だ。(本が出版されたのは2014年)

主人公はフリーランスのWEB制作男子とプログラマ女子という組み合わせで、それだけでちょっと興味がわいてくる。自分がWEB屋なので。

だがしかし、WEB屋である。徹夜続きで疲れた感じのビジネスカジュアル男子と、給湯器で洗髪しちゃうSIerの激務女子が頭に浮かんでしまい、どうしても迫力がなさそうで心配になる。いやいやそんなことは無いのよ。

しかも、男子のほうは個人で流れ星の予測サービスをしているとか、ちょっともうニッチすぎて話が膨らみそうにもなくて心配になる。いやいやそんなことは無いのよ。

流れ星を探していたらたまたま怪しい衛星の動きを見つけてしまいソレが実はテロ攻撃で宇宙ステーションに危険が迫るので実は超人的に能力の高いWEB屋二人がそれを解決するという話だし。え、なにそれ、すごい。

他の登場人物も派手だ。JAXA職員、テヘランでコンピューターも満足に使えない天才宇宙工学博士、天才肌の犯罪者とそれを支える北朝鮮の工作員、イーロンマスクっぽい投資家、サンタクロースを追いかけるNORADの大佐以下数名、そしてCIA。とっても盛沢山。

SFとしても破綻している様子も無いので、微妙なテクノロジーで白けるような設定は一切無し。「ジョウント!」と叫べば宇宙のどこへでもワープできるような設定は無いからご安心を。2020年ならそんなことも有るだろうな、というぎりぎりの線を保っている。

SFなんで話のキーとなる技術ってものがあるのだけど、本作では『ローレンツ力で推進するテザー推進の技術』が重要な技術として紹介される。なにそれだ。おいしいの? ってやつだ。でも、大丈夫。適当に流しておいて『ローソンがおススメする手羽先餃子の秘術』とかで理解していても問題ない。

出てくる言葉もなかなかリアリティがある。出てくる単語は、コンピューターやWEB、宇宙開発系に興味がないと理解も難しいかもしれない。でも実は、本作品で出てくる知らない単語なんて読み飛ばしてしまっても全く問題無い。無理に調べたりせず、テンポよく読んでいってしまって問題無い。

SFにも技術にもWEB屋にも疎くても『オービタルクラウド』は読む人を選ばずグイグイと読ませる。なぜか、それだけ人を引き付けるのは、しっかりとしたヒューマンドラマとして成り立っているからだ。まるでハリウッド映画か、Netflixの良くできたSFドラマみたいなのだ。

まるで映画かドラマなので、まるで映画かドラマのようにご都合主義な展開が続いたりもするのだけど、全然気にならずにグイグイと読んでいける。エンターテイメントとして良くできているのだ。

SF読むとしたら何が良いですか? と聞かれると、つい「ハイペリオン」とか「星を継ぐもの」とか、最近なら「三体」とか言っちゃいそうだけど、そんなときは「オービタルクラウド」を勧めておけば恨まれずに済むね。

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