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毎日読書#218 『ホットゾーン』(リチャード・プレストン)

コロナウィルス騒ぎのなか、カミュの『ペスト』が売れているそうな。なんでやねんと思うのだけど、発注をかけるのは本屋に勤める方なので、文学好きの方が、今回のウィルスの騒動から浮かんだのがカミュ『ペスト』だったのだろう。

『ペスト』は、アルジェリアの架空の街を舞台に、伝染病と戦う医師達や、病気の蔓延によっておこる人々の孤立や葛藤が描かれる。カミュの『異邦人』と並ぶ代表作だ。

ニュースを見て、書棚にある新潮文庫版をざっと読んでみたけど、確かに役人が役に立たないところに何か思うところがあるのか。人々の浅ましさに何か思うところがあるのか。

右も左もわからず、愚かな行為に走る人々の姿は、Twitterでデマをまき散らす愉快犯や、メルカリでマスクを高額で転売する人々を連想する。するのかな。

人の心の愚かさ、美しさを寓話的にとらえるこの物語は、我々が人間であるがゆえに克服できていない愚かさを見せつけてくる。これは、世の中のクリエーターたちが現代でも追い求めているテーマでもあるし、言ってしまえば良くある話ではある。そんなありきたりなテーマではあるのだけど、カミュの洗練された文章は心に深く切り込んでくる。お見事だよね。

まぁとにかく売れているそうで、増刷までされているとか。出かけるところも無いし、こんな時、読書に時間を使うのは良いかもね。

私は、今回のコロナウィルス騒ぎで真っ先に頭に浮かんだのは今回紹介する『ホットゾーン』だった。

不謹慎な事を言うけど、例のクルーズ船の騒ぎで、真っ先に沸き上がった感情は好奇心だった。いったい、人と病原菌がどのような攻防を繰り広げているのかなと。人間の英知や勇気が、どのようにして病気を封じ込めているのか、という事に興味があった。もしくは、どのような理由で失敗しているのか、という事に興味があった。

『ホットゾーン』はエボラ出血熱を引き起こすエボラウィルスの感染拡大とその封じ込めに命をかけて取り組んだ医療関係の戦いの物語だ。

その内容は非常にリアルで、病気の進行と、死に至る経過の説明は、微に入り細を穿つ。つまり、かなりグロテスクだ。だが、誇張などは一切ない、リアルな病気の姿を、必要だからこそ細かく伝えてくれている。

エボラは感染したら、半数以上が無くなってしまう。エボラ・ザイールの場合、致死率は90%、エボラ・スーダンだと50%だ。

また、感染後の経過が酷い。細かくは書かないけど、感染すると、肉体が内部から崩壊し、生きたまま内臓は溶け、脳が泥のようになり、身体のありとあらゆるところから出血し、爆発するように血をまき散らし、壮絶に亡くなっていく。あまりの苦痛ゆえに流される涙すら血だ。

そして、散々苦しめられた患者が死ぬと、肉体は突然、分解を始め、エボラウィルスを大量に含んだ液体(血液の場合1滴の中に1億個ものウィルスが含まれるようになる)が遺体から流れ出る。そしてその血に触れたものを新たな宿主にし感染を広げる。

まるで勝ち目の無さそうな相手だ。ゾンビ映画のような絶望感があるが、実際にゾンビ映画はエボラ出血熱を元ネタにしているそうな。

しかし、本書はホラー小説ではない、ノンフィクションだ。実際にザイールやスーダン、そしてアメリカでエボラウィルスと戦い、勝利した人たちが居る。なんという勇気だろう。人間は、こんなに凶悪で暴力的なウイルスに立ち向かい、勇気と知恵と科学の力で打ち勝ったのだ。

こういっちゃ不謹慎(二回目)だが、人間の弱さや愚かさも、放漫さも、欺瞞、偽善も、そして知恵も、勇気も、英雄的態度も、全てが詰め込まれたノンフィクションの最高傑作のひとつだ。こういっちゃ不謹慎(三回目)だが、物凄く面白いのだ。

そして、こんな病気から勝利をもぎ取った人類である、コロナウィルスにだって勝利するに決まっている。

現時点では売り切れちゃっていて中古しかないみたいですね。しかも高い。この本も増刷されるのではないかしら。されないかな。とにかくおススメです、私を知る方でしたら御貸ししますんで、読みたくなったら言ってください。

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