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毎日読書#238 『海の歴史』(ジャック・アタリ)

著者のジャック・アタリはフランスの経済学者であり、思想家であり、作家であり、政治顧問。今日の本は『海の歴史』だけど、これまでも様々なトピックで「包括的な歴史」を綴ってきた。

「ヨーロッパ最高の知性」とか「知の巨人」とか言われている。立花隆と池上彰を足してペリエで割ったような人。日本でも好きな人は多いですよね。

本書のテーマは、表題の通り「海」で、海がじっと見守ってきた生物の歴史、人類の歴史が綴られる。そして、歴史から未来を見通し、予言を試みる。まるで、火の鳥を読んでいるときに感じるような時間の超越感というか、神的な視座で人類の営みを見守るような気持ちになってくる。

その内容は現在の人類への警笛から始まる。

母親を殺せば自分も死んでしまうことがわかっていながらも、母親に少しずつ毒を盛る子を思い浮かべてほしい。こうした不条理な状況こそ、今日、人類が海に対して行っていることなのだ。その子は、母親のおかげで呼吸ができ、そして栄養を得ることができるのに母親を殺そうと夢中になっている。母親を殺そうとすれば、その子のほうが先に死んでしまう……。
(P19:イントロダクション)

では、何をなすべきか。まずは宇宙開闢の時から現在までの海の歴史を学ばねばならぬという。そして、海が果たしてきた役割を、海から眺める歴史に通じることで理解し、未来へつなげよという。

本書が扱う話題は多岐に渡るが、その話題をチョイスする基準は、全て海が見守ってきた歴史だ。

私なんかは、子どものころからずっと、アジア人の視点で歴史を見てきたのだけど、これをヨーロッパで常にナンバー1になれなかったフランスという国の視点でみるというのは、純粋に面白い。

ジャック・アタリはフランス人なので、何故フランスは海の覇者になれなかったのか、という点に感心が強い。アジアについては割としっかり書かれているが、極東の方にはあまり目が行かなかったようであっさりしてる。池波正太郎の『坂の上の雲』で、1600ページも使って書かれたバルチック艦隊と日本軍の海戦も、本書では8行で終わってしまう。寂しいw せめて旅順の話もいれてくれたらよいのに。

まぁとにかく、人類の歴史は海が決めてきたと言わんばかりで、多少強引な結論付けには、読んでいて可笑しな気分になってくる本だ。

あらゆるトピックで、最後は「海が決めたのである」となるので、ほんまかいなと思うが、そう言い切っても差し支えないだろうエピソードを、世界史の膨大な蓄積から集めているのだからそうなるのだろう。

なにせ、日本とアメリカの休戦協定の話題の締めですら、

アメリカと日本の休戦協定[日本の降伏文書]は海の上[東京湾上のアメリカ戦艦の甲板]で調印された。

で締められるくらいだ。

この本に書かれていることを全て盲目的に信じよ、というものではない。切り取り方が一方的だし、視座に偏りがある。それに、フランス人の立場で書かれているので、どうしたってアジア小国の日本では相いれない箇所もある。しかし、自分の立ち位置を明確にしながら、他者の意見を知恵を取り入れ、自分の血肉にしていくには良い内容。

最後に、海を守るための提言というものが出されるのだけど、それを読めば読むほど、人間が増え続けている現状では無理なのではないかと思ってしまう。いずれ、人類にとって取り返しのつかない状況になったとき、やっと海にとっての平穏が訪れるのではないかしら。

何時もとは違う箇所の脳みそを使う読書でした。面白かったよ。

装丁がイイ。(割とそれだけの理由で買ったふしもある)

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