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伊坂幸太郎は初期の頃からマジシャンみたいな構成力だった 『チルドレン』 【読書ログ#79】

昨日、この続編の『サブマリン』をご紹介したが、実は順番を間違えて公開してしまった。

2004年に短編連作として『チルドレン』が発表され、その12年後の2016年に『サブマリン』が発表されているので、こちらが前作となる。

なので、最初は、陣内ってのは本当に面白いキャラクターだから続編の『サブマリン』もよんでみてね! 明日紹介するね! という感じで4万文字位、陣内についての愛を語っていたのだけど、予定が狂ってしまった。

しょうがないので、書き直しました。

最近発表された『サブマリン』を読んで、主人公の陣内が気に入った人で、まだ『チルドレン』は未読だという方に『チルドレン』を読むと、『サブマリン』で「?」と思うような話も解決するし、二作にわたる伏線改修みたいな感じになって、伊坂幸太郎作品らしい楽しさが倍増するからいいよ、という気持ちを伝えるつもりで書き直しました。

この前置きも入れて1000文字位なのでお付き合いください。

『チルドレン』(伊坂幸太郎)

本作は、5つの短編の連作という形式。伊坂本人は長編としてよんでもらいたいらしい。と、どこかで読んだ記憶がある。

本書のすべての短編は、すべて「陣内」という男を中心にまわっている。

さらに言えば、この物語の世界は陣内を中心にまわっているとも言える。

さらにもっと言えば、この物語は陣内を楽しむためにある。

陣内は、相手が誰であろうと自分の意見を押し通す。理屈は通らないが筋は通る。分け隔てなきゃいけない相手でも分け隔てなく付き合う。超適当で場当たり的。意見はころころかわるし、都合の悪いことは無視。絶妙なその場の言い逃れで全てをごまかす。勢臆面もなく自分を棚に上げる。

よくよく知ってみると、社会の欺瞞をすべてひっくり返したような人物なのだが、別に聖人君子という訳ではない。

陣内は、ある日少年に向かって(彼は家庭裁判所の調査官だ)言い放つ、

「カラスは黒いだけなんだ。白いカラスなどいるわけない。絶対に」

それをきいた非行少年は白いカラスの写真を持ってきて、ほらいるじゃないかと、これだから大人は信用できないんだと、偉そうに決めつけるからいやなんだと詰め寄る。

しかし、陣内はひるむことなく、顔色ひとつかえず

「それは白じゃない。薄い黒だ」

と言い放つ。痛快に適当。

盲目の友人である永瀬(正統派のイケメンキャラ)が、街でおばちゃんから現金を握らされる。五千円札を握らされる。盲目だから大変でしょうという、彼女なりの優しさなのだが、陣内は平然と「ふざけんなよ」と言い放つ、

「何で、おまえがもらえて、俺がもらえないんだよ」

と、本気で永瀬に言い放つ。

盲目であることなんて、気にしていないし、気にするつもりもない、そこには気遣いも気後れも気負いも忖度も何もない、純粋に「なにもしていないのに金をもらえるなんてずるい。余ってるなら俺にもよこせ」と本気で思っているキャラクターなのだ。これはね、見ていると気持ち良いのです。

陣内の腹の底には愛がある。

だから、ただの無茶苦茶な人物では終わらない。

本作は、この陣内の昔を少しだけ知ることが出来る内容になっている。

『サブマリン』では、同僚の武藤が銀行強盗に巻き込まれた話をされたが信じていないというエピソードが出てくるが、本作では、実際にその銀行強盗が行われており、陣内が人質としてしっかり巻き込まれているところから始まるのだ。

し、か、も、その人質には永瀬も居るのだ。ほら、読みたくなってくるでしょう!

伊坂幸太郎の構成で読ませるスタイルはこの頃から健在。来るかな? 来るかな? と、待っていると、期待の少し上のところでお馴染みのどんでん返しが来て、わー、やったーとなる。

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