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産総研、米IBMと協力して従来比性能75倍の次世代量子コンピューターの開発を目指す

発表日:2024年6月16日

概要

経済産業省所管の産業技術総合研究所は、米国のIBMと連携して、次世代の量子コンピューターの研究開発を行うことになりました。両者は、量子ビット数が1万を超える量子コンピューターの開発を目指し、現行機の75倍以上の性能を実現することを目標としています。

IBMの量子コンピュータ

量子コンピューターとは、量子力学の原理を利用した次世代のコンピューターです。従来のコンピューターとは異なり、量子ビットと呼ばれる量子の性質を利用した演算を行います。量子ビットは0と1の2値だけでなく、重ね合わせ状態と呼ばれる0と1の中間的な状態も取ることができます。このため、複雑な組み合わせ計算を非常に高速に処理できると期待されています。

量子コンピュータに期待される応用分野

量子コンピューターの実用化が進めば、創薬物流の最適化など、これまでにない分野での活用が見込まれます。

例えば、新薬の開発では、膨大な数の化合物の組み合わせから有効な薬剤を探す必要があります。量子コンピューターの並列処理能力を活用すれば、この探索作業を飛躍的に効率化できる可能性があります。

また、物流の最適化においても、量子コンピューターは大きな役割を果たすでしょう。天候や交通状況、荷物の積載状況など、多くの変数を考慮した上で、最適な配送ルートを算出する必要があります。

量子コンピューターならば、これらの複雑な条件を瞬時に計算し、最適解を導き出せると考えられています。

産総研とIBMの協業と今後の課題

産業技術総合研究所とIBMの連携により、量子コンピューター技術の発展が大いに期待されます。両者は長年にわたり量子コンピューターの研究を重ねてきました。

今回、量子ビット数1万超の量子コンピューターの共同開発に乗り出すことで、量子コンピューターの実用化に向けた大きな一歩となるでしょう。量子コンピューターは、現代コンピューターを遥かに凌駕する性能を発揮すると予想されています。

しかし一方で、セキュリティ上の課題も指摘されています。量子コンピューターの並列処理能力は、現行の暗号技術を簡単に解読できてしまう可能性があるためです。そのため、量子コンピューターに対応した新しい暗号技術の開発も急務となっています。

量子コンピュータの動作原理

量子コンピューターは、従来のコンピューターとはまったく異なる動作原理を持っています。

従来のコンピューターは、ビット(bit)と呼ばれる0か1の2値の情報を処理する仕組みになっています。一方、量子コンピューターは、量子ビット(qubit)と呼ばれる量子の性質を利用した情報処理を行います。量子ビットは、0と1の2値だけでなく、0と1を重ね合わせた状態も取ることができます。この重ね合わせ状態は、量子力学の「重ね合わせの原理」に基づいています。

量子ビットが重ね合わせ状態にあるということは、0と1の両方の値を同時に持っている状態にあるということです。このような量子ビットの特性を活かすことで、量子コンピューターは並列処理能力に優れています。従来のコンピューターでは、複雑な組み合わせ問題を解くために、すべての組み合わせパターンを1つずつ計算する必要がありました。

古典ビットと量子ビットのイメージ

しかし、量子コンピューターでは、重ね合わせ状態にある量子ビットを使うことで、すべての組み合わせパターンを同時に計算できるのです。このように、量子コンピューターは膨大な計算リソースを必要とする問題を、飛躍的な速さで解くことができます。

創薬や物流の最適化などの分野で、量子コンピューターの活用が期待されているのはこのためです。量子コンピューターの実現に向けては、量子ビット数の増加が課題となっています。

量子ビットが多ければ多いほど、より複雑な計算を行えるようになります。しかし、量子ビットは外部の影響を受けやすく、誤りが生じる可能性があります。このため、量子ビットの数を増やしつつ、誤りを最小限に抑える技術が求められています。

産業技術総合研究所とIBMが目指す、量子ビット数1万超の量子コンピューターは、この課題に対する一つの解決策となるでしょう。両者の研究開発が実を結べば、量子コンピューターの実用化が現実のものとなり、科学技術の発展に大きく貢献することが期待されます。

量子ボリュームと呼ばれる指標は、量子ビットの制御と読み出しに関わるエラー、デバイス間の接続性やクロストーク(混信)、ソフトウェアのコンパイラー効率なども考慮した指標で、量子システム全体のパフォーマンスを包括的に定量化したもの。ゲート式の量子コンピューター同士であればユニバーサルに測定とベンチマーキングを行って性能を比較することが可能。

【まとめ】

・産業技術総合研究所とIBMが量子ビット数1万超の量子コンピューター開発で協力
・量子コンピューターは現代コンピューターを75倍以上の性能で凌駕する見込み
・量子ビットの重ね合わせ状態を利用した並列処理能力が量子コンピューターの強み
・創薬や物流の最適化など、様々な分野での量子コンピューターの活用が期待される
・量子ビット数の増加と誤り抑制が量子コンピューター実現の鍵
・量子コンピューターの実用化で科学技術の発展が見込まれる一方、セキュリティ対策も必要


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参考文献


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