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GDDR(Graphics Double Data Rate)とは?

一言で言えば…

高性能なグラフィックス処理に特化したメモリ技術です。主に、グラフィックスカード(GPU)やゲーム機、さらには高性能な計算を必要とするワークステーションに使用されます。

GDDRは、その高速なデータ転送能力と低消費電力特性により、これらの用途において不可欠な技術となっています。

本記事では、GDDRの基本概念から歴史、技術的特性、現在の状況、そして将来展望について詳しく解説します。

GDDRの概要

GDDRはDRAM(Dynamic Random Access Memory)の一種で、DDR(Double Data Rate)技術を応用しています。DDRはメモリーチップとCPUやGPUとのデータ転送レートを倍増させる技術です。GDDRはDDRに加えて、以下の特徴を備えています。

  • 高い帯域幅

  • 低いレイテンシー(待ち時間)

  • 高い消費電力効率

これらの特性により、GDDRはグラフィックス処理に最適化されています。現在、最新世代のGDDR6が主流で、転送速度は毎秒16Gbps(ギガビット/秒)に達します。

GDDRの主な用途は、GPUに搭載されるグラフィックスメモリーです。GPUはゲーミングPCやワークステーション、データセンターなどで使用されています。

近年では、AIやディープラーニングの分野でGPUの需要が高まっています。GDDRの高速データ転送能力が、大量の学習データの処理に適しているためです。

DDRメモリとGDDRメモリの違い

DDR3やDDR4などのDDR SDRAM(Double Data Rate Synchronous Dynamic Randam)メモリはPCでCPUと接続するメインメモリです。

一方、GDDR(Graphics Double Data Rate)はCPUではなく、GPUと接続することを前提としたメモリになります。

歴史的には、GPUが使用されるようになった際に、それまで使われていたSDRAMやDDR SDRAMでは性能が足りなくなったため、DDR SDRAMをベースにグラフィック専用に特化したメモリとしてGDDRが登場しました。

そのため、基本的に同世代ではDDRよりもGDDRの方が高速な転送ができるようになっています。

DDRとGDDRのロードマップ

DDRとGDDRは両方とも半導体技術の標準化団体であるJEDECが標準規格を策定していますが、DDRとGDDRは別の規格という扱いになっています。

なお、JEDECでは、GDDRについてはGDDR SGRAM(Synchronous Graphics Random Access Memory)という名称を使っています。

CPU/GPUとの接続形態

GDDRは、主にGPUのメモリとして使用されています。一方、CPUのメモリとしてはDDR4などのDDR SDRAMが一般的に使われています。

「GDDRの方が高速なら、CPUのメモリもDDRではなくGDDRにすれば良いのでは?」

と考えるかもしれませんが、実際にはそれは難しいのです。

GDDRはビデオカードなどの基板上で、GPUの近傍に直接はんだ付けして実装することが前提となっています。一方で、CPUのメモリは拡張性を持たせるため、基板上のソケットにDIMM(Dual Inline Memory Module)と呼ばれる、DDR SDRAMを実装したメモリ基板を接続して使います。

仮にGDDRをDIMMで接続すると、配線が長くなりすぎるためシグナル・インテグリティ(信号品質)が確保できずに安定した通信が難しくなります。また、動作が高速になると一般的には消費電力も上がるため、熱設計が重要になりますが、基板上で熱設計をする前提であるGDDRをDIMMなどで接続すると、熱設計を担保することも難しくなります。

さらに、GDDRとDDRではインタフェースも異なるため、CPUメーカーがGDDRのインタフェースに対応しない限り、CPUのメインメモリとしてGDDRを使用することはできません。

GDDR-GPUとDDR-CPUの接続形態の違い


デバイスとしての動作比較

GDDRメモリの動作について説明します。特にSDRAM、DDR SDRAM、GDDR5、GDDR6のクロックとデータの関係に焦点を当てます。

通常のSDRAMは、クロック(CK)の立ち上がりでシリアルデータ(DQ)を送信します。これに対して、DDR SDRAMメモリはクロックの立ち下がりと立ち上がりでシリアルデータを送信し、SDRAMに比べて帯域が2倍になります。これが「Double Data Rate(DDR)」と呼ばれる所以です。

次にGDDRについてですが、GDDR5では、クロック(CK)に加えて、クロックの2倍の周波数を持つWCLKというクロックでデータを送信します。これにより、単純に考えるとDDRの2倍の速度でシリアルデータを送信でき、同じ周波数のクロックに対して大きな帯域を確保できます。

さらに、GDDR6では、WCLKをクロックの4倍で動かしシリアルデータを送信することで、GDDR5以上のさらに大きな帯域を確保しています。

SDRAM、DDR SDRAM、GDDR5、GDDR6のクロックとデータの関係

つまりまとめると、以下のようになります。

  • SDRAM:クロックの立ち上がりでデータ送信。

  • DDR SDRAM:クロックの立ち上がりと立ち下がりでデータ送信し、帯域はSDRAMの2倍。

  • GDDR5:クロックの2倍の周波数を持つWCLKでデータ送信し、帯域はDDRの2倍。

  • GDDR6:WCLKをクロックの4倍で動かし、さらに大きな帯域を実現。

このように、各メモリ技術はクロックとデータの関係を工夫することで、データ送信速度と帯域を向上させています。GDDR5およびGDDR6は、特に高いデータ転送速度を求められるグラフィックス処理において、その性能を最大限に発揮しています。

GDDRの進化

GDDRは第1世代から第6世代まで進化を遂げてきました。各世代の主な特徴は以下の通りです。

GDDR1

  • 1998年に登場

  • 転送速度 4Gbps

GDDR2

  • 2002年登場

  • DDR2の技術を採用し、転送速度が2倍に

GDDR3

  • 2003年登場

  • 転送速度が最大12.8Gbpsに向上

GDDR4

  • 2006年登場

  • 消費電力を大幅に削減

GDDR5

  • 2008年登場

  • 転送速度が最大8Gbpsに達する

GDDR6

  • 2017年登場

  • 転送速度16Gbps、消費電力効率が向上

なお、現在最新のGDDR7がSamsung Electronics、SK Hynix、Micronによって開発されています。プロトタイプレベルですが、GDDR7は転送速度が40Gbps、帯域幅が160GB/sという大幅な性能向上を実現しているようです。2024年末には量産に入る予定とのことなので、早ければ年明けには超高速のグラフィック体験ができるかもしれませんね。

Samsung ElectronicsのGDDR7


GDDRの将来展望とHBM

AIやディープラーニングの発展に伴い、より高速で大容量のメモリーが求められるためGDDRの需要は今後も拡大が見込まれています。一方で、転送速度の向上には物理的な限界があり、消費電力の増大も課題となっています。

そのためGPUメモリの世界で、HBM(High Bandwidth Memory)も大きな注目を集めています。この記事では、GDDRについて説明しましたが、GPUメモリには、GDDR系とHBM系があり、GDDR系はエントリーモデル〜ミドルレンジのGPU、一方のHBM系はハイスペックモデルのGPUで使われています。

HBMは、メモリーチップをGPUに3次元的に積層することで、転送速度とメモリー容量を大幅に向上させる技術です。GDDRメモリーが狭いチャネルでデータ・レートを引き上げて高スループットを実現しているのに対し、HBMメモリーは8つの独立した128ビット幅チャネルによる広いデータパスを約2 Gbpsの比較的低速で動作させることによって高スループットを実現しています。

このため、同じスループットならHBMメモリーの方がGDDRメモリーよりも消費電力が小さく、面積も大幅に削減されます。

Synopsys社のHPより引用

今後、GPUメモリとしてGDDRとHBMのどちらがポジションを拡大していくのか世界中の注目が集まっています。


参考文献


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