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お伽噺に、まさかの感情移入

三浦しをん「風が強く吹いている」(新潮文庫)読後感想

「素人寄せ集め」の面白さ

「大学4年生が、同じ下宿の素人同然の学生を集めて10人ギリギリで箱根駅伝を目指し、最後はシード権まで取ってしまう」という、現実には絶対にあり得ない究極のお伽噺である。いわゆる「マンガじゃあるまいし」の世界なのに、僕は珍しく感情移入してしまった。

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ガチで盛り上がっていく物語

前半、主人公の1人清瀬灰二(きよせ・はいじ)が、下宿屋竹青荘(ちくせいそう)の近くでもう1人の主人公、高校で長距離選手だった蔵原走(くらはら・かける)と出会い、「これで10人になった」と箱根駅伝を目指すことを寄宿生たちに提案し(と言うより、半ば脅しで了承させ)、初めて記録会に行くあたりまでは結構のろのろと物語が続くが、それ以降は夏合宿、予選会、本大会までの練習……と、時を重ねるに連れて盛り上がっていき、時には小さい対立もある登場人物たちの、生活や性格のいろいろな部分に自分を投影しながら読み進めた。大学近くの商店街の八百屋の娘、葉菜子とメンバーたちとの恋物語も香辛料としてしっかり入っている。


これって、本物の駅伝中継?

そしていよいよ箱根駅伝の本大会。各区間に割り振られた選手たちを、いつの間にかファン視線で見ている自分に気付かされるところは、さすが三浦しをんと唸らせる。そこからの、テレビ中継を観たり、実際に自分で車で走ったりして見慣れた沿道の景色の中を10人の学生たちが走る場面は、駅伝放送を観ているかの如く一気に読んでしまった。僕にとってこの小説は、先日読んだ誉田哲也「武士道四部作」や百田尚樹「ボックス!」などと並ぶ青春スポーツ小説の名作となった。

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灰二のイメージは、竹内涼真さん(写真は4年前のドラマ「陸王」から)。葉菜子は最初に載せたこの娘、小池里奈さんを想像してずっと読んでいた。

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