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蔵造りの「開口部(扉・窓)」について…

今回は蔵造りの開口部にある窓や、扉について紹介する。
蔵造りの2階部分を見ると、観音開きの扉や、木製の格子の窓が見られる。

まずは、観音開きの扉について、紹介する。
川越の蔵造りは土蔵造りの店蔵で、耐火・防火の意味合いで、基本的に壁は土でできていて、開口部は狭く、その開口部にある観音開きの扉部分は土が塗られ、厚く、重い扉になっている。
この扉は建物の内側と扉部分と共に段々になっていて、この段々を掛子(かけこ)と呼び、また扉を閉めて内側の漆喰塗りの壁部分と重なっている状況を「手合わせ」と呼ぶ。
この手合わせは、左官職人による「掛子塗り」と呼ばれる技術で、扉と壁と互いの段々が隙間なく、重なるように漆喰が塗り籠められている。
空気や火の流入を防ぐためにもこの締りの具合が肝心で、これは扉と壁の間に紙1枚を挟んでも落ちない程度の合わせの精度と言われている。
ここに左官職人の匠の技が見られる。

5段の掛子を持つ原田家住宅

以前紹介したが、耐火建築である蔵造りは土の壁でできていて、熱が伝わらないよう厚く造られている。
川越ではこの扉の段々である掛子は3段か、4段の蔵造りが多い状況で、この段々の数が多いほど、その分扉の厚みが増し、その合わせになる壁もまた厚くなる。
川越市内では松江町にある原田家住宅が持つ5段の掛子が最も段数が多く、壁の厚さも市内最大級と思われる。

それから、観音開きの扉を持つ多くの蔵造りでは、2階部分の扉は外から開け閉めを行い、その際の足場として、観音開きの扉の前には「目塗台」と呼ばれる太い柱の様な台が屋根に設置されている。

目塗台(看板後ろ)

火災時にはこの目塗台に上がり、外から扉を閉め、隙間部分に「用心土」(ようじんつち)と呼ばれる土と水を混ぜ捏ねたものを塗り籠めて、備える。
火災時に遠くまで土を取りに行ったのでは用が足らないため、建物の一階部分には予め土を入れた収納部分があり、各戸で用意している。
鉄製の蓋を一階部分の入り口床面に確認できる場所も一部存在するので、今度注意深く観察してみては。

用心土を収納

観音開きの扉は基本的には漆喰塗りの重い扉が多く、仲町観光案内所と百足屋では扉を銅板で覆った珍しい扉を見ることができる。
これは銅板で覆った軽目の扉が用いられていて、それを棒の先に金具がついたものでひっかけて扉を押し引きすることで、建物内から容易に扉の開け閉めが可能になるよう工夫された造りになっている。
火災時に他人による扉の開閉を待つのではなく、これなら早期に自発的に扉の開閉が可能になる。

仲町観光案内所の扉

さて、2階開口部は採光と、通風のため、観音開きの扉が用いられているが、1Fの開口部にも観音開きの扉の存在を確認できる。
蔵造りは店蔵の後ろに住居部分があり、その結合部分の開口部に大きな観音開きの扉がある。
また、店蔵1階の開口部には土が塗られた雨戸の様な「土戸」があり、火災時にはこの土戸を閉め、店を守る。

普通、店蔵は耐火建築の土蔵のため、火に強いのだが、住居部分は木造が多く、火災時には燃えやすい。
そこで、火災時には住居部分にある大切なものを店蔵に移し、2階観音開きの扉を閉め、目塗を行い、そして、店1階の土戸を閉め、住居部分との境にある大きな観音開きの扉も閉めてから、非難する。
最悪、家が燃えたとしても、店が残れば、商売ができ、いち早い再興が可能となるから…

この店蔵と住居部分の境にある観音開きの扉が確認できるお店が川越市内に数箇所ある。
その中から1箇所を紹介。
川越街道の郵便局入口交差点近くにある「百足屋」の土産店と、その奥の飲食スペースとの境部分に大きな扉がある。
店蔵と住居部分との境が分かる場所なので、今度確認してみては。

さて、開口部が観音開きの扉ではなく、オシャレな木製の格子の店蔵も街中に存在する。
亀屋山崎茶店の建物で、まるで京都にある町屋の様な佇まいである。
この木製の格子の店蔵は観音開きの扉を持つ蔵造りに比べ、開口部が広いのが特徴。
格子のため、採光、通風と優れ、生活環境は高まる。
先ほど紹介の観音開きの扉を持つ蔵から少し後の時代に建てられた蔵造りの中には、耐火よりも快適な生活にプライオリティが置かれたと思われる木製の格子を持つ蔵造りも複数存在する。

この木製の格子にさらに工夫を盛り込んだ特別な格子を持つ蔵があり、最後に紹介する。
一番街の北にある「大沢家住宅」で、横に長い開口部には白木のような格子がある。
1本おきに上の部分が切り落とされた短い格子と、長い格子とが繰り返されたデザインで、京都の町屋で見られる切子格子で、糸や布を扱う職業の建物で多く見られるとのこと。
そのため、この格子は「糸屋格子」とも呼ばれている。
この格子は木製のため、火災には弱く、そのため、この表面を漆喰で塗り籠め、火災に強くしたのが、この大沢家住宅の土塗格子になる。
これは「土格子」とも呼ばれ、この白木に見える格子は実は漆喰塗りの格子だったと、多くの人は気付いていないかもしれない。
川越で「土格子」が見られるのはこの大沢家住宅だけである。

大沢家住宅の土格子

今度、蔵造りの街を歩くときには、蔵の開口部である扉や、窓に注目してみては。

今回のnote記事の他、別で開催の建物巡りのツアー、サロン、ラジオ番組などを通し、建物の見方、見え方が少しだけ変わってもらえると、嬉しく思う。
建物について知ると、建物への興味が増し、街歩きがもっと楽しくなる…
『川越の建物 蔵造り編』のご一読も併せておススメ!
(本記事は『川越の建物 蔵造り編』内の本文、画像を一部引用)

蔵造り18箇所を紹介! 『川越の建物 蔵造り編』

■ラジオコーナー番組との連動企画
本記事は、FMラジオ川越で放送中のコーナー番組
「仙波書房の建物と本の時間」と連動。
ラジオは以下の日時に放送!

6月14日(水)の放送では、今回のnote記事にある蔵造りの「開口部(扉・窓)」について紹介。
2023年6月14日(水) 12:00~14:00
『おひるどき』内
「仙波書房の建物と本の時間」
FMラジオ川越にて放送!

■ラジオの視聴方法について
番組はインターネットサイマルラジオ「JCBA」や、アプリ「Radimo」(レディモ)を用いて、全国から視聴可能!

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